企業で働く人にとって、支給される給与明細は会社からの報告書のようなものです。勤怠の状況、支給された給与や報酬の内訳、給与から天引きされている税金や社会保険料などたくさんの貴重な情報が記載されています。これらを確認することで、どのように働いて給与が決まり、税金などをいくら払ったかがわかります。これらの金額の決まり方を知ることで、今後のお金の流れを予想できます。ぜひ、給与明細をチェックしてください。
給与明細に記載されているのは、大きくわけて勤怠状況と支給された金額、そこから天引きされている控除の金額とその内訳が記されています。給与明細のフォーマットは会社によって異なりますが、記載されている内容は同じものとなります。
※給与明細の例
(実際の税額、社会保険料とは異なります)
まずは勤怠の状況を確認しましょう。出勤日数、残業や深夜勤務、休日出勤の時間など、その月にどのように働いたかが記載されています。残業時間などのカウント期間は会社によって異なりますが、勤務実態と異なっていないかをチェックするようにしましょう。また、有給休暇の取得状況も記載されていることが多いので、こちらも確認しておくとよいでしょう。
次に支給の内容を確認します。基本給や手当が支給されていることがわかります。手当には、実際に働いた実態に対する手当(残業手当、休日手当、深夜手当等)と、本人の職務に応じて支払われる手当(役職手当、資格手当等)、家族や生活に関する手当(家族手当、住宅手当等)があります。どのような時に手当が支給されるかは会社によって異なります。受給できる要件等は就業規則の賃金規定などで規定されています。一度確認しておくとよいでしょう。
支給されている項目のうち、一番チェックしておきたいのが基本給です。ボーナスや退職金は基本給をベースに計算される事が多いので、一番大切な給与といえます。できれば、前年、前々年からの変化などを確認しておきましょう。
残業や休日、深夜に勤務した場合は通常の賃金より割増するべきことが法律で決められています。厳密にいうと、法定労働時間(一日8時間、週40時間)を超えた法定時間外残業は25%以上の割増、長時間の残業(1か月60時間超)は50%以上の割増と決められています。また、法定休日は35%以上、深夜(22時から5時)は25%以上の割増です。
例えば、法定休日かつ深夜での作業では、35%+25%で60%以上の割増となります。
法定労働時間や法定休日は会社によって定められています。就業規則などで確認しておきましょう。支給された残業代などが、法律で定められた割増が守られているかもチェックしておくとよいでしょう。
最後に控除の欄を確認しましょう。特に、税金や社会保険料はいくら控除されているかを確認し、出来れば前年の同月と比べましょう。
■所得税は源泉徴収(仮払い)
税金として、所得税と住民税が控除されていますが、これらの税額の決まり方は異なります。所得税は、その年の所得に対して税金がかかり、正確な税額は年末に決まります。そこで、都度支払われる給与やボーナスから仮払いの形で税金を納めます。これを源泉徴収といい、「給与所得の源泉徴収税額表」*1から算出されます。その月に支給された給与から社会保険料を引いた金額、扶養親族の数の2つの項目から税額が自動的に決まる仕組みです。
最終的に、正確な所得税額は年末に決まります。会社員の場合は、年末調整で納めるべき税額と仮払いした税金が清算されます。
例えば、パートタイマーなどの短時間労働者で、社会保険料を控除したあとの給与が月額88,000円の場合の源泉徴収税額(月額)は、下記となります。
①給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の提出があり、
扶養親族0人の場合:130円
②給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の提出が無い場合、
扶養親族の数に関係なく乙の金額:3200円
申告書を提出しておらず、所得税を払っている場合は、確定申告をすれば払いすぎた税金が戻ってくる可能性が高いです。忘れずに申告をするようにしましょう。税金の還付申告は、さかのぼって5年間申告することができます。会社から配布された「源泉徴収票」をもとに、申告しましょう。
■住民税は前年の所得に対して納付
住民税は前年の所得にかかります。新入社員など前年の所得が無い人は、住民税は徴収されません。翌年の6月から住民税が控除されるようになります。また、会社を辞めてその年に収入がない場合も、前年の所得に対して住民税を納付する必要があります。原則、最終給与から一括して徴収されますが、退職のタイミングによっては後から自分で納付することもあるので注意しましょう。
1月1日に住んでいる自治体から、5月から6月頃に住民税決定通知書が届きます(会社経由で配布されます)。1年間支払う住民税が計算されていますので、確認するようにしましょう。
※住民税決定通知書の見方は、次号で解説予定
■厚生年金、健康保険料は4・5・6月の給料で決まる
最後に社会保険料をみておきましょう。厚生年金、健康保険、介護保険(40歳以上の場合)、雇用保険の保険料が控除されます。
そのうち、厚生年金と健康保険の保険料は、支給される報酬から算定される「標準報酬月額」によって決まります。保険料の計算をしやすくするために、一定の金額以内の報酬を一つの等級とし、保険料を決めるものです。厚生年金は32等級、健康保険は50等級にわかれています。この等級ごとに厚生年金と健康保険の保険料が決まっています。
この報酬には、基本給などの給与の他、家族手当や通勤手当などの手当や社宅などの現物支給とされるものまで含まれます。
実際に給与から天引きされる保険料をみておきましょう。厚生年金保険料は、標準報酬月額の9.15%となります。健康保険料は、加入している健康保険によって異なります。例えば、中小企業が加入する「全国健康保険協会(協会けんぽ)」のうち東京都では、健康保険料は標準報酬月額の4.99%、介護保険料は標準報酬月額の0.8%です(令和6年度)。
協会けんぽ東京の場合の健康保険料と厚生年金保険料
(令和6年4月納付分から、労働者負担額)
この標準報酬月額は、原則として4・5・6月に支給される報酬によって決まります。例えば、3・4・5月の残業時間が多くなると4・5・6月の残業代が増え、一年の保険料が高くなる可能性があります。また、40歳を超えると介護保険料も加算されるので、注意しましょう。
■雇用保険料はその月の支給額から
雇用保険料は、その月に支給された報酬によって決まります。支払われた報酬に雇用保険料率をかけたものが雇用保険料です。雇用保険料率は職種によって決まっており、事務などの一般事業は0.6%となります。
一般の事業 | 6/1000 |
農林水産・清酒製造の事業 | 7/1000 |
建設の事業 | 7/1000 |
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/001211914.pdf
・その他の控除項目も確認
会社によっては、労働組合費などが控除されている場合もあります。また、財形貯蓄や持株会なども加入状況に応じて控除されます。
このように、給与明細にはたくさんの情報が記されています。勤怠項目に間違いはないか?残業時間や休日出勤などが反映されているか等を確認しましょう。
また、その残業などの手当が支給されているか、割増率が間違っていないかもチェックしておくとよいでしょう。
住民税は前年の所得に対して課税されますが、その控除はその年6月の給与分からとなります。6月の給与から住民税が変わります。また、厚生年金と健康保険の保険料は新たに決定された標準報酬月額から保険料が算定され9月から変更となります。特に、6月と9月の給与明細はチェックするようにしておきましょう。
銀行に振り込まれる手取り額をチェックするだけでなく、給与明細を読み込むことで、どのように給与が決まり、何をいくら支払っているかがよくわかります。きちんと確認するようにしましょう。
※掲載の情報は、2024年4月時点の情報です。