近年、よく耳にするようになったダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)とは、多様なバックグラウンドや価値観を持った人材を受け入れ、それぞれの能力が発揮できる環境をつくること。企業力の向上に欠かせない経営戦略の指針としてD&Iを掲げる企業も増えています。とはいえ、実際には何から着手すればいいのかわからない。効果が測定しにくい。ゴールがイメージできないなど、D&Iに対する戸惑いも聞こえてきます。
連載企画「D&Iを考える」では、多様性を大切にすることで成長している企業や学校、団体などを紹介。現場の声を聞くことで、誰もが自分らしく生きるためのヒントをお届けします。今回は「D&Iこそイノベーションの源泉である」という考えのもとに事業を展開し、順調に成長を続けている株式会社Paidyをインタビュー。CSO(最高戦略責任者)を務めるシルビアさんにお話を伺いました。
ペイディは、BNPL(Buy Now Pay Later/いま買って、あとで支払う)と呼ばれる決済サービスのひとつ。手続きがスマートで、一括あと払いのほか最大36回の分割あと払いが手数料無料(口座振替・銀行振込のみ)でできること、支払い方法がコンビニ払い、銀行振込、口座振替の3種類から選べることなどから、自分らしく使える「自由なあと払い」として多くの方に利用され、アプリダウンロード数は1,500万を突破しています(2024年7月現在)。
「お買いものは自分への投資で、夢を叶える貴重な一歩です。好きな洋服を着て気分を上げることも、新しく道具を揃えて趣味を楽しむことも、あらゆる体験は自分の人生をよりよくするためのアクションであるはずです。お金が原因で諦めてしまうのはもったいない。ほしいものを吟味し、計画的に支払っていくことで何らかの挑戦ができるならば応援したい。ペイディはそのためのサービスです」。
ではなぜ金融サービスを提供する企業が、D&Iを企業文化の中心に据えているのでしょうか。
シルビアさんに聞いてみました。
「多様性があるとイノベーションが生まれやすいことは設立当初から確信していました。ただ、特別国籍にこだわっているわけではないんですね。『社員の約6割が外国籍を持ち、その国籍数は約40カ国に上る』という部分が注目されがちなのですが、いま抱えている課題を解決するためには、どんなスキルを持った人材が加わると組織が強くなるのか。その都度考えて、世界中から仲間を集めた結果が現在につながった、というのが実際のところです」
またシルビアさんは、D&Iの鍵はインクルージョンにあると強調します。
「多様なバックグラウンドを持つ人材が集まっただけではD&Iの真価は発揮されません。インクルージョンは包括性と訳されますが、要はお互いを自分とは異なるプロフェッショナルとして認め合うこと。リスペクトし合うことで初めて個々の能力を活かせるインクルーシブな職場が実現するのではないでしょうか」
インクルーシブな職場づくりに注力しているPaidyは、2022年、2023年と2年連続で「Best Place to Work in Japan※」に認定。2023年度は「世界で最も優れた職場」の28位および「アジア太平洋で最も優れた職場」20位にも選ばれました。
※英国に本拠地を持つBest Places To Work Ltdが運営。企業文化や成長機会、慣習など8つの要素に関する社員の満足度および人事制度・運用の成熟度を測り、そのスコアが優れた職場を認定するグローバルなプログラム。
「コロナ禍でリモートワークが普及する以前から、メンバーは世界中で働いていました。会社のバリューとしては『勝ちにこだわる・共に結果を出す・価値を認められるメンバーになる』という内容を掲げていますが、逆に言うとそれさえクリアできれば、オフィスでも自宅でも働く場所にはこだわりません。社風もフラットでヒエラルキーもないんです。社長でも今日入社した社員でも自由に意見を出し合い、耳を傾けあう風土があります」
D&Iを進めるうえで大変だったことはありますか?と伺ったところ、「実はまったくないんです」と笑うシルビアさん。
「D&Iの推進に苦労しなかったのは、たまたま運が良かったわけではなくて、常にゴールを明確に設定して、アジェンダを共有しているから。この2つさえクリアすることでまとまると思います。多種多様な人が働く環境下では、暗黙知の世界が成り立たないんですね。何となく通じる、空気を読むということが一切ない。言語化しないとわからない。だから納得できるまで議論しますし、その結果、スムーズに物事が進み、ビジネスとしても成長が可能なのだと思います」
また、つまずいたときこそリーダーの出番だとシルビアさんは言います。
「前述のアジェンダ設定に加えて、起きている問題を整理して、適切な調整をするのがリーダーの役割です。一方で、リーダーは常にチームを率いるというものでもないんですよね。致命的なリスクにならないようなことであれば、多少スタッフが怪我をして痛い目を見ても、チャレンジさせたほうがいいこともある。先頭に立つカリスマ的な存在ではなく、物事のバランスを柔軟に見極められるリーダーがD&Iの時代には求められるのではないでしょうか」
Paidyで働いている社員は、職場に誇りを持っているとのこと。
過去に実施した社内アンケートでも高いエンゲージメントが出ています。
D&Iにおいて、何よりも重要なアセットは人。
シルビアさんご自身のキャリアを聞いてみました。
「わたしはハンガリーの出身です。ベルリンの壁がある時代に育ってきたことを可哀想だと言われることもあるのですが、自分ではそう思っていません。あの歴史があったから、小さなリソースで何ができるか、どうやって物事をつくれるかを学ぶことができたので、勉強になった面も大きいと捉えています」
日本への興味は、幼稚園の頃、折り紙をきっかけに芽生えたとのこと。高校時代に日本で外交官になる夢を持ち東京大学に留学するも、結局はビジネスの世界へ。アフリカ以外の全大陸で仕事をしてきました。
「Paidyへは2019年12月に入社しました。創業者の想いに共感していますし、世の中の役に立ち人に喜んでもらえるものをつくることに、やり甲斐を感じています。また、プライベートでは合気道や居合道などの武道を学んでいます。武道のいつ攻めていつ守るか、相手の力をどう効果的に使うのかという視点は、ビジネスに通じるものがあり興味深く思っています」
アクティブなシルビアさんですが、Paidy社員のキャラクターは千差万別。
「超インドアだけれど、コーディングのスキルはずば抜けているという人もいます。ひとつ共通しているのは、趣味を楽しんでいる社員が多いことですね。好奇心は仕事においても大切なので、それぞれが好きなものを持っていることは、とてもうれしく感じています」
また、印象的だったのは自己主張が強い人は難しいというコメントでした。
「D&Iの世界では自分の意見を主張することよりも、他者と協業する力、コミュニケーションを取る力のほうが圧倒的に大切なんですね。自分のスキルを最大限に発揮するのは大前提ですが、自分が絶対的に正しいと突っ走る人は馴染めないように思います」
国籍や職種は多様でも、目指したいものが同じ。
それがD&Iを実現する採用のポイントだとシルビアさんは教えてくれました。
「わたしは決済サービス云々ではなく、人の夢を叶えるお手伝いをする仲間を募る感覚で採用に臨んでいます。Paidyはいまでこそ認知度も上がってきましたが、5年前はまだほとんど知られていない会社でした。日本人はリスクを取りたくない傾向もあるので、ベンチャー企業の採用は正直簡単ではありません。歴史や規模感では勝負できないわけですから、面接に来てくれる方にはビジョンに共感してもらう以外にはないと思っています。共感さえあれば、高いハードルも一緒に乗り越えられるから」
「それから面接の際にはタフネスも見ます。考え方に理屈が通っているのか。想定外の質問が来たときにどんな切り返しができるのか。あるいはフリーズしてしまうのか。芯があることも大切ですね」
最後にD&Iに取り組む企業に対してアドバイスをもらいました。
「ある社員には地味で単調な仕事ばかり、ある社員は注目度の高い花形の仕事ばかりを割り振らないこと。わたしたちは誰もがやりがい、面白さ、楽しさを感じられる配分を意識していますし、もちろん評価もフェアにしています」
Paidyでは多様な社員をどうモチベートするか。常に挑戦できる環境、学べる環境を整えていくことにマネジメントチームは心血を注いでいると言います。
「人間である限り、成長していくことに喜びを感じる。誰かの役に立つことに幸せを感じる。そこに国籍は関係ない。D&I以前に、わたしは人間の有り様を美しいと思っているんです」
夢に自信を、心に余裕を持てるように。
その志を体現するために、今日もPaidyでは、さまざまなバックグラウンドや価値観をもった社員が働いています。