発酵活動家の田中菜月さんが各地を旅し、さまざまな人と交流を重ねながら、自分らしく生きていくためのヒントを見つける連載企画「ウェルビーイングをめぐる旅」。第4話となる今回は、2022年4月に淡路島にオープンしたばかりの禅リトリート施設「禅坊 靖寧(ぜんぼう せいねい)」へ宿泊しました。リトリートとは、仕事や生活から離れた場所で自分と向き合い、心身をリラックスさせるための旅のスタイル。360度に広がる大自然を味わいながら空中禅を味わえるこの場所には、その体験を目的にたくさんの方が訪れています。禅坊 靖寧が考えるウェルビーイングとは一体どのようなものなのでしょうか。菜月さんがお話を伺います。
「社会の問題点を解決する」を企業理念に掲げる総合人材サービス会社のパソナグループは、2008年から淡路島で人材誘致による地域活性に取り組み、観光事業として島内にレストランやエンタメ施設を次々と開業してきました。2022年には大自然の中で心身を整える禅リトリート施設「禅坊 靖寧」をオープンし、全国各地から注目を集めています。
菜月さんが訪れたのは、禅坊 靖寧が初めて迎える年の瀬、空気が透き通る冬の週末。木の温もりに包まれたサロンでお茶をいただきながら、現地で働くスタッフの方にお話をお聞きしました。
「360度を自然に囲まれている禅坊 靖寧は、四季折々の木々の様子や、風の音、鳥のさえずりなどが色濃く感じられ、大自然を感じながら心身を開放しマインドフルネスな時間をゆったりと堪能できる施設です。ここは淡路島の最北端にあり、大阪や神戸に一番近い立地でありながら四方を森に囲まれています。また、日本の中心である東経135度の子午線上に建てられており、自然のエネルギーを感じやすい場所とも言われています」。
禅坊 靖寧では「起きて半畳 寝て一畳」という、禅の精神のもとに設えられた18の宿坊(しゅくぼう)があります。宿坊はシンプルでありながら贅沢な空間。窓一面から森と空が臨め、ゆっくりと自分自身と向き合えるようなスペースです。
施設の名称にある「靖寧」は禅語のひとつで、静かで安らかなこと。世の中が治っているという意味だそうで、「禅体験を通して心穏やかに自分を見つめ直し、将来の夢や未来に想いを馳せる場所」という施設のコンセプトを表現しています。
また、すべての宿坊にも禅語から名称が付けられていました。菜月さんが宿泊したのは「元気」。元気とは体の調子が良く健康で勢いのよいこと。活動の源となる力を意味しますが、「元(もと)の気」でもあることから、ありのままの自分はどういう人間なのかを考える時間を持ってほしいという思いが込められています。
1泊2日で、3回のZEN Wellnessを体験した菜月さん。ZEN Wellnessとは、座禅だけでなく、呼吸法や瞑想法、ヨガやストレッチの要素を交えたオリジナルの内容で、自分の中にしっかり没入できることを意図しています。
菜月さんはまず建物の力を感じたと言います。
「全面ガラス張りなので、刻々と変化する自然のドラマが観られてとても贅沢な時間でした。太陽や雲の流れ、風、木々の香り、鳥の声など、生命のリズムを全身に受けながら、自分が整っていくのが感じられたように思います。頭の中のモヤモヤを呼吸とともに吐き出して、空っぽにするには最高の場所だと思いました。
瞑想インストラクターのビラル先生に、ZEN Wellnessについて聞いてみました。
「わたしは毎週、この禅デッキでZEN Wellnessを行なっています。数年前に呼吸や瞑想に興味を持ち始めて試してみたところ、禅や瞑想は自分で自分を満たすことができると感じました。過去や未来のことではなく、『いまこの瞬間』を味わうことで、いつも落ち着いた気持ちでいられるようになりました。禅デッキからは圧倒されるほどに美しい自然を眺めることができますが、季節や天候や時間によって毎秒景色は違っています。ぜひその瞬間を意識してみてください」。
菜月さんは、ビラル先生にウェルビーイングカードも選んでもらいました。このカードはウェルビーイングに意識を向け、対話をうながすもの。ビラル先生の最初の1枚目はやはり「マインドフルネス」でした。
「一生はあっという間だと思います。だからこそ思い煩わずにいまを楽しまないといけない。良いことも悪いことも、常にいまに集中することは豊かな人生の要ではないでしょうか」。
2枚目は「自然とのつながり」です。
「太陽や月や星、雨、植物とあらゆる自然には、とても大きなパワーがあります。僕たちは自然の一部。そういう気持ちを意識するだけで驕りや力みやストレスは減るはずです」。
3枚目は「感謝」。
「一緒に働いているスタッフ、菜月さんのようにZEN Wellnessを体験してくださった方にいつも感謝しています。感謝の対象は人間だけではなく、ありとあらゆるものですね。食事はもちろん、呼吸をするときには口、鼻、喉、肺などにも感謝をしています。誰もが感謝を持つことは、ひいては世界平和にもつながっていくと思うんです」。
また滞在中は、お茶やおやつ、夕食、夜食、朝食とたくさんの禅坊料理をいただきました。
禅坊料理とは身体も精神も整えるために、独自に開発した精進料理で、小麦粉、上白糖、油、動物性の食材は一切使わないことや、伝統的な製法で一年以上熟成させた調味料を使っていることなどの特徴があります。
発酵活動家として著書も出されている菜月さん、興味津々でシェフに取材をします。
「分解するのに時間や負担がかかる食材は排除しています。例えば砂糖はもともと日本にはなかったもので、甘味は甘酒や味醂、干し柿などで代用していました。凝縮した野菜にも自然な甘さがあります。昔の知恵が詰まったものはやはり身体にいいんですね。わたしも上白糖を食べないようになってから、味や匂いに敏感になりました。禅坊料理で大切にしているのは原点回帰です」。
原点回帰の精進料理と言っても、洗練された見た目と味の「NEO精進料理」であったこと、料理が出てきたとき、ゲストから感動の吐息が聞こえたことを菜月さんがお伝えすると、シェフも笑顔に。
「精進料理というと地味なイメージもあるかもしれません。でも見た目で期待を超えて、味でも期待を超えてと、まさにいま言っていただいた2つの点で期待を超えたいと思っています。厨房の全員がシェフという肩書きの名刺を持ち、食材やレシピについては正確に理解して質を保っています。料理人は腕があるだけではなく、きちんとしたコミュニケーションが取れることや、仲間を思いやるような気持ちも大切です。厨房の空気感で料理の味も変わると思っています」。
翌朝、気持ちいい朝日に包まれて、菜月さんはZEN書の体験もしました。書家の紫舟(ししゅう)先生が書かれた、母親に感謝する文書を書き写していきます。いま生きているすべてのみなさまが例外なく母親から生まれ、たくさんの方のおかげでここにいる。ZEN書のテーマは恩返し、そして恩送り。親など直接恩をくれた相手に恩を返してもいいし、あるいはもらった恩を次の人に渡すのでもいい。「産んでくれただけで一生をかけても返せない恩です」という一文もありました。
禅坊 靖寧に来た方には何を感じてほしいのか。
最後にもう一度スタッフの方に伺いました。
「2022年4月末にオープンしてから年末までに、非常に多くのお客様にご来場いただいております。禅体験されたい方やヨガが好きな方、坂茂さんが設計されたこの建築に興味がある方もいらっしゃいます。
何よりもうれしいのは、普段の生活で忙しく仕事をされてる方々が、「すっきりした、リフレッシュした」と言われて元気になって帰られることだそう。
「ときには涙ぐまれる方もいらっしゃいますが、泣くという行為はデトックスやリラックス効果もあるので素晴らしいと思います。自分を見つめ直すというのは一朝一夕でできることではないので、何かしら気付きや学びを持ち帰っていただけることを目指していきたいです」。
あふれる情報にさらされて、バタバタと日々を過ごしがちなわたしたちは、ときには日常から離れることも必要です。そのための場所に足を運び、自分を素に戻していくことは、ウェルビーイングな人生を送るためにも、意識するべき時代なのかもしれません。
禅坊 靖寧は、野村不動産グループカスタマークラブ会員特典がご利用いただけます。詳細は、野村不動産グループカスタマークラブサイト「会員特典・ご優待」ページの「淡路島西海岸」(https://www.nomura-re-cc.jp/service/alliance/awaji/)をご覧ください。