「ふるさと納税」はお得な制度として話題になることが多いですが、実際にどのような制度なのか。また、何がお得なのかをきちんと理解している方は少ないかもしれません。今回は、ふるさと納税制度を詳しく説明し、具体的にどのようなメリットがあるかを解説します。デメリットや注意すべき点、今後の動向などについても紹介します。
ふるさと納税とは、日本の地方自治体を支援するための制度です。ふるさとや応援したい自治体に寄付をすると、その寄付金の一部が所得税や住民税から控除される制度です。実際には、寄付した金額から2,000円を引いた額が税金から控除されます。多くの自治体では、寄付の返礼として特産品やサービスが設定されており、自己負担2,000円で返礼品が受け取れるため、人気を集めています。
ふるさと納税を利用する人は年々増加しています。総務省の調査によると、令和5年にふるさと納税をした人は1,000万人を超え、寄付金の総額も1兆円を超える規模になっています。
出典:総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和6年度実施)
ふるさと納税を利用することによるメリットを詳しく見てみましょう。
1点目は、所得税や住民税の控除が受けられることです。本来納めるべき所得税や住民税が、寄付金から2,000円を引いた分だけ減額されるということです。
2点目は、寄付をした自治体から返礼品が受け取れることです。地域の特産品や名産品、工芸品、旅行券、宿泊券など、さまざまな返礼品を用意している自治体が多くあります。
3点目は、地域貢献ができることです。ふるさとや応援したい自治体に、ふるさと納税を通じて支援を行うことができます。
返礼品の傾向
ふるさと納税の返礼品の金額は、寄付金の30%までと決められています。自治体は、寄付金の30%以下の金額で返礼品を調達しています。また、返礼品は地場産品に限られています。熟成肉や精米などの加工品は、原材料がその自治体と同じ都道府県産であるものに限られます。
お肉や海鮮物、野菜、お米、酒類といった特産物が人気の返礼品ですが、最近では、新しい形の返礼品も増えてきました。体験型の返礼品として、宿泊クーポンや旅行券、農業体験や伝統工芸ワークショップなど、その地域を体験できるものもあります。地元のお墓の手入れや、一人暮らしの親の見守りといったサービスを返礼品として用意している自治体もあります。
返礼品はないものの、クラウドファンディング型のふるさと納税も注目されています。地域の起業家を応援するプロジェクトや動物の殺処分ゼロを目指すプロジェクトなど、自治体とその取り組みを応援する仕組みもあります。他にも、災害が起こった自治体への寄付として、ふるさと納税を利用しているところもあります。自己負担2,000円で被災した自治体に寄付できるということです。また、被災した自治体の事務作業を軽減するため、異なる自治体がふるさと納税を受け付け、被災した自治体に寄付を届ける動きも出ています。
ふるさと納税のデメリットも見ておきましょう。
1点目は、税金が還付されたり減額されるのは翌年であることです。ふるさと納税で寄付した場合、その時点で寄付金を全額支払わなければなりません。年末などに慌てて寄付をたくさん行い、その支払い額が多くて困ったという人もいるようです。寄付金額を確認し、自己負担が2,000円で済む上限額を超えないように注意が必要です。
2点目は、住んでいる自治体の税収が減ることです。ふるさと納税は、本来住んでいる自治体に納める住民税が、ふるさと納税先の自治体に納められるためです。住民税の減収額が全国1位の横浜市では、304億6,700万円の税収減となっています。次いで名古屋市が176億5,400万円、大阪市が166億5,500万円と、都市部の自治体で税収が多く減っています。
出典:総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和6年度実施)
本来、自治体は住民税を財源として住民サービスを提供しています。こうした税収減の現実にも注目しつつ、ふるさと納税を活用したいものです。
ふるさと納税をすると、その寄付金額に応じて、所得税と住民税が控除されます。例えば、年収700万円の給与所得者(夫婦・子どもなし)が30,000円のふるさと納税を行った場合、所得税からの控除が5,600円、住民税からの控除が基本分と特例分を合わせて22,400円となり、合計で28,000円の税金が控除され、自己負担は2,000円となります。
【ふるさと納税の仕組み】
所得によって、自己負担が2000円になる上限は異なります。例えば、給与収入600万円の場合、独身や共働きでは77,000円、専業主婦世帯では69,000円、専業主婦世帯で大学生と高校生の子どもがいる場合は43,000円となります。
ただし、これはあくまで目安です。他の控除(生命保険料控除、住宅ローン控除、医療費控除等)を受けている場合は、上限額が異なります。国税庁のHPにはシミュレーションができるエクセルシートが公開されていますので、参考にしてください。
【自己負担額が2,000円となる「ふるさと納税額(年間上限)」の目安】
ふるさと納税を行う方 本人の給与収入 |
ふるさと納税を行う方の家族構成 | |||
---|---|---|---|---|
独身又は共働き※1 | 夫婦※2 | 共働き+子1人(高校生※3) | 夫婦+子2人(大学生と高校生) | |
300万円 | 28,000 | 19,000 | 19,000 | - |
400万円 | 42,000 | 33,000 | 33,000 | 12,000 |
500万円 | 61,000 | 49,000 | 49,000 | 28,000 |
600万円 | 77,000 | 69,000 | 69,000 | 43,000 |
700万円 | 108,000 | 86,000 | 86,000 | 66,000 |
800万円 | 129,000 | 120,000 | 120,000 | 85,000 |
900万円 | 152,000 | 143,000 | 141,000 | 119,000 |
1,000万円 | 180,000 | 171,000 | 166,000 | 144,000 |
1,500万円 | 395,000 | 395,000 | 377,000 | 361,000 |
2,000万円 | 569,000 | 569,000 | 552,000 | 536,000 |
※1「共働き」は、ふるさと納税を行う方本人が配偶者(特別)控除の適用を受けていないケースを指します。(配偶者の給与収入が201万円超の場合)
※2「夫婦」は、ふるさと納税を行う方の配偶者に収入がないケースを指します。
※3「高校生」は「16歳から18歳の扶養親族」を、「大学生」は「19歳から22歳の特定扶養親族」を指します。
総務省HPより、一部筆者抜粋
実際にふるさと納税を行う際の手続きをご紹介します。
1)ふるさと納税ポータルサイトで、寄付先や返礼品を選ぶ
ふるさと納税のポータルサイトで各自治体からの返礼品を選びます。寄付金額を確認し、自己負担が2,000円で済む上限額を超えないように注意しましょう。ネットショッピングのように、選ぶことができます。
2)寄付金を決済する(クレジットカードや口座振替など)
寄付先と返礼品を選んだら決済を行います。クレジットカードや口座振替などが利用できます。
この後、控除を受けるための手続きを行います。申告方法は2種類あります。通常は確定申告を行いますが、給与所得者で確定申告が不要な人は「ワンストップ特例制度」を利用できます。この制度を使うと手続きが簡単になり、ふるさと納税を手軽に利用できます。
3-1)ワンストップ特例を利用する場合の手続き
ふるさと納税を行う際に、ふるさと納税ワンストップ特例の申請書を提出します。ポータルサイトから申請用紙がダウンロードできますので、それをふるさと納税先の自治体に郵送します。マイナンバーカードを利用してオンラインでの申請も可能です。
3-2)確定申告を利用する場合の手続き
ふるさと納税を行うと、その自治体から、確定申告に必要な寄付を証明する書類(受領書)が発行されます。ふるさと納税を行った翌年の3月15日までに、確定申告を行います。その際には、寄付を証明する書類(受領書)を添付する必要があります。
ふるさと納税をした場合、実際にふるさと納税によって税金が減っているかを確認しましょう。ふるさと納税を行った翌年の5月から6月に届く「住民税決定通知書」に、住民税が減税されていることが記載されています。
住民税決定通知書は自治体によって書式や記載内容が異なりますが、「寄附金税額控除額:〇〇円」などと記載されている箇所があります。例えば、下図のような通知書では、赤で囲んだ概要欄に記載されています。もし記載がない場合は、住んでいる自治体にふるさと納税分が控除されているかを問い合わせましょう。
【住民税決定通知書(一例)】
多くの人がふるさと納税をポータルサイトを通じて申し込んでいると思います。ポータルサイトでは、寄付に応じてポイントが付与される場合もあります。しかし2025年10月よりポイントの付与が禁止される予定です。ポイントを貯めている人は、2025年9月までに利用するのが良いでしょう。
自己負担が2,000円となる寄付の上限額は、その年の所得で判断されます。その年の所得が減る予定などの事情がある場合は、上限額を正確に把握しておきましょう。
また、納税者の名前でふるさと納税をするようにしましょう。納税者以外が自分の名前で寄付をしても、減税の対象にはならないので注意してください。
お得な制度といわれる「ふるさと納税」ですが、デメリットや注意点もあります。それらを理解した上で、ふるさと納税を賢く、上手に活用しましょう。
※掲載の内容は2024年11月時点の情報です