毎年、年末が近づいてくると、サラリーマンやパート・アルバイトの方にとって気になるのが「年末調整」です。そもそも年末調整って何なのでしょうか?
年末調整は、所得税を正しく計算するために欠かせない大切な手続きです。年末調整の仕組みや、必要な書類についてご紹介します。
給与や賞与が支払われる時に「源泉徴収税」として所得税が控除されています。これは、所得税の仮払いのようなものです。金額は、支払われた給与額や扶養している親族の数などによって自動的に決まっています。所得税は、1月1日から12月31日までの1年間に得た所得に対して課税されるものなので、正確な税額が決まるのは年末となります。
年末に源泉徴収税として支払った仮払いの税金と正確な税額を精算するのが、年末調整です。仮払いで支払った税金と本来支払うべき税金を比較し、仮払いで支払ったほうが高額であれば、その差額が返還されます。その逆であれば、追加で所得税を支払うことになります。多くの人は、仮払いで支払った税金のほうが高額となり、差額が還付されています。この一連の処理を年末調整といい、会社が従業員に代わって申告・納税をしています。
実際の手続きは、従業員が、税金に関する情報と必要な証明書を会社に提出します。タイミングは会社によって異なりますが、10月に年末調整に関する情報の入力を求められ、締め切りを11月とする場合が多いようです。
所得税の税額を決める上で大切なのは、所得控除や税額控除という仕組みです。控除が適用されると、支払う所得税が安くなります。これらの控除がどれだけ適用されるかによって税額が決まります。控除が適用されるほど税金が安くなり、その控除を申請するのが年末調整の目的です。主な所得控除や税額控除について紹介します。
【所得控除(人的控除)・年末調整で申告可能】
納税者や扶養している家族の状態により控除が受けられます。
基礎控除 | 合計所得が2,500万円以下の場合 |
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配偶者控除 | 合計所得が1,000万円以下で、 扶養している配偶者の所得が48万円以下の場合 |
配偶者特別控除 | 合計所得が1,000万円以下で、 扶養している配偶者の所得が48万円超133万円以下の場合 |
扶養控除 | 16歳以上で所得48万円以下の親族を扶養している場合 ※16歳までは児童手当制度の対象のため、扶養控除の対象外 |
【所得控除(物的控除)・年末調整で申告可能】
保険料などを支払った場合に控除が受けられます。
生命保険料控除 | 対象となる生命保険、医療保険、個人年金保険料を支払った場合 |
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地震保険料控除 | 対象となる地震保険料を支払った場合 |
社会保険料控除 | 社会保険料を支払った場合(扶養親族分も含む) 給与天引きで支払った保険料(厚生年金、健康保険等)は、自動的に計算されるが、自身で支払った保険料(子どもの年金保険料等)は、年末調整で申告する必要がある。 |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済法に規定された契約の掛金等を支払った場合 例)個人型確定拠出年金(iDeCo) |
以上の控除は、年末調整で申告できます。
次に、年末調整では申告できない控除をご紹介します。これらの控除の申告は、翌年に確定申告を自分自身で行う必要があります。
【所得控除、税額控除・年末調整で申告不可能】
医療費控除 |
1月1日から12月31日までで支払った医療費*¹が10万円*²を超えている場合 *¹ 生計が同じ親族分を含む。保険金などが受給した場合はそれを差し引く *² 総所得金額が200万円未満の場合、総所得金額等の5%の金額 |
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寄付金控除 | 特定の団体に寄付をした場合 例)ふるさと納税 ワンストップ特例を利用した時は、確定申告は不要 |
住宅借入金等特別控除 (住宅ローン控除) |
対象となる住宅ローンを借り入れた場合 1年目のみ確定申告が必要。2年目以降は年末調整で申告が可能。 |
では、年末調整で控除を申告した場合、どれくらい所得税が減るのかを計算してみましょう。
【Aさんの例】
Aさん 45歳 年収550万円(所得税率 10%)
妻 43歳 パート勤務 年収100万円
子ども 10歳、5歳の2人
生命保険、地震保険、個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入
Aさんが年末調整で申請できる所得控除と所得控除額
所得控除 | Aさんの条件・支払い例 | 所得控除額 |
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配偶者控除 | 妻(配偶者)の給与収入が年収103万円以下 | 380,000円 |
生命保険料控除 | ||
生命保険加入 保険料 月7,000円 年間84,000円支払い |
40,000円 | |
医療保険加入 保険料 月7,000円 年間84,000円支払い |
40,000円 | |
個人年金保険加入 保険料 月7,000円 年間84,000円支払い |
40,000円 | |
地震保険料控除 | 地震保険加入 保険料 年間25,000円支払い | 25,000円 |
小規模企業共済等掛金控除 | 個人型確定拠出年金(iDeCo) 月23,000円拠出 年間276,000円支払い |
276,000円 |
合計 | 801,000円 |
配偶者のパートが年収103万円以下であれば、配偶者控除が受けられます。また、一定の生命保険、介護医療保険、個人年金に加入し保険料を支払っていれば、それぞれ最大4万円、合計12万円の控除が受けられます。地震保険も支払った保険料(最大5万円)の控除が受けられます。個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入していると、拠出した掛金分が、小規模企業共済等掛金控除として適用されます。
扶養親族がいる場合は、扶養控除を受けることができますが、その年12月31日現在の年齢が16歳以上の親族のみが対象となるため、Aさんの子ども(10歳、5歳)は扶養控除の対象にはなりません。
今回の申請で適用される所得控除の合計は801,000円となりました。所得税は所得に応じて税率が異なる「累進課税」が適用され、税率は5%から45%です。一般的に、給与年収550万円のAさんの所得税率は10%なので、所得控除801,000円の10%の80,100円が減税されることになります。
年末調整の具体的な手続きをみてみましょう。会社に提出する書類は、「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼年末調整に係る定額減税のための申告書兼所得金額調整控除申告書」「保険料控除申告書」「扶養控除等申告書」です。
・給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書等
本人の基礎控除と配偶者控除を申請するための書類です。
青枠部分 : 基礎控除のための情報として、本人の所得情報を記入します。
赤枠部分 : 配偶者控除のための情報として、配偶者の所得情報等を記入します。
・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
扶養控除の申請をする書類です。
扶養している配偶者や親族などの情報を記入します。所得税の扶養控除の対象にならない16歳未満の扶養親族の情報も記入します。
・保険料控除申告書
生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除を申請する書類です。
青枠部分 : 生命保険料控除のための情報として、加入している生命保険、介護医療保険、個人年金保険の情報を記入します。
赤枠部分 : 地震保険料控除のための情報として、加入している地震保険の情報を記入します。
緑枠部分 : 社会保険料控除の申請です。給与から天引きされている社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料)は申請する必要がありません。家族分として払った社会保険料(国民年金保険料等)給与引き以外で支払った社会保険料を記入します。
オレンジ枠部分 : 小規模企業共済等掛金控除の申請です。個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入している場合は掛金を記入します。
それぞれ支払った保険料等の払込み証明書が10月頃にハガキなどで届きます。それらの証明書を会社に提出します。
会社員でも確定申告をする必要がある人もいます。
1)給与の収入金額が2,000万円を超えている
2)給与所得や退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超えている
3)2か所以上から給与の支払を受けており、年末調整されなかった給与の収入金額と、給与所得や退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超えている
これらに該当する人は、必ず翌年に確定申告をしましょう。
また、年末調整で申告できない控除(医療時控除等)を申告するにも確定申告が必要です。払いすぎた所得税が還付されます。
年末調整を行った後に、保険料の証明書が出てきたり、控除の申告を忘れていた場合でも、確定申告をすれば大丈夫です。これを還付申告と呼び、5年遡って申告することができ、申告で税金が還付されます。
会社員が確定申告をするには、その年にどれだけ税金を払ったかを示す「給与所得の源泉徴収票」が必要です。年末調整後の12月末から1月ごろに会社が発行する証明書です。これらの書類を揃えて、確定申告をしましょう。
年末調整は、自分の税金がどのように決まるか、どんなことで税金が安くなるのかを知る良い機会です。一つ一つ意味を考えながら、年末調整を行うとよいでしょう。
※掲載の内容は2024年10月時点の情報です