暮らしのTIPSペアローンに配偶者の残債もゼロになる
団体信用生命保険(団信)が登場!
知っておきたいペアローンのポイント
september 24, 2024

不動産経済研究所の調査によれば、2024 年上半期の新築分譲マンションの平均価格は 7,677 万円(首都圏新築分譲マンション市場動向2024 年上半期)。7月度の平均価格は 7,847 万円(首都圏 新築分譲マンション市場動向7月)となっています。いずれも前年同期比ダウンとは言え、首都圏のマンション価格は高止まりの状況です。価格が高いと、住宅ローンの借入額も増加傾向となりますが、近年は住宅ローン金利が低く、高額借入れをしやすい状況となっていました。

2023年の「労働力調査/総務省」では、共働き世帯数が1,278万世帯、専業主婦世帯数が517万世帯と、世帯数では共働き世帯が専業主婦世帯の2.4倍強となっており、住宅購入においては、価格上昇とも相まって夫婦で返済することを前提にしたプランニングが増える傾向です。今回は、夫婦で住宅ローンを利用する際の「ペアローン」のポイントと注意点、及び、新しく発売された「ペアローン団信」について、お伝えいたします。

ペアローンの利用実態は?

住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者調査(2024年4月調査)」によれば、「ペアローン」を利用した割合は22.8%、「収入合算」を利用した割合は15.4%、「いずれも利用していない」割合は、61.8%という結果でした。「ペアローン」と「収入合算」を合わせた世帯年収をあてにした住宅ローンプランは、38.2%となります。

また、「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査(株式会社リクルート)」では、マンション購入者のペアローン(世帯主と配偶者)の割合が34%と高くなる結果が出ています。同調査のローン借入総額では、52%が「5,000万円以上」、平均5,235万円となり、2005年以降の調査で最も高くなっています。高収入の共働き世帯ほど借入総額も高くなる傾向で、マンション相場の上昇をパワーカップルが支えている構図が続きます。

夫婦で借りる住宅ローンは3タイプ

住宅ローンは、夫または妻の単独名義で借り入れるほかに、夫婦で借り入れることが可能です。その方法は、大きくわけると「ペアローン」と「収入合算」という借り方で、いずれも、単独の借入れでは希望額に満たない場合などに有効です。

夫婦でペアローン 収入合算(妻が収入合算者の場合)
連帯保証型 連帯債務型
契約方法
(住宅ローンの契約本数)
夫婦それぞれが
住宅ローンを契約
(2本)
債務者(夫)が
住宅ローン契約
(1本)
主たる債務者(夫)と
従たる債務者(妻)が
連名で住宅ローン契約
(1本)
夫婦の関係性 互いに相手の連帯保証人となる 妻は連帯保証人となる 妻は連帯債務者となる
事務手数料 定額型:2契約分
定率型:2契約分
となるが、1契約の場合と同額
1契約分 1契約分
住宅ローン控除 夫婦それぞれが、自身の借入残高に応じて控除を受けられる 夫のみが控除を受けられる 夫も妻も控除を受けられる
団体信用生命保険
(団信)
夫婦それぞれが団信に加入し、契約者の万が一の際に借入残高分の保障が受けられる 夫のみ団信に加入できる。妻に万が一のことがあっても保障は受けられない 「フラット35」の新機構団信「ペア連生団信」では、夫婦どちらかの万が一の際に保障が受けられる。民間住宅ローンは主たる債務者のみが保障の対象

それぞれのポイントを見ていきましょう。

【ペアローン】
夫婦それぞれが、金融機関と住宅ローンを契約する方法です。各自が住宅ローン審査に通ることが必要です。

ペアローンでは、契約が2本となるため、住宅ローンの諸費用がアップします。ただし、アップするのは、契約1本に対して定額でかかる費用です。例えば、事務手数料が1契約につき33,000円であれば、ペアローンだと倍になります。一方、借入額に対し定率でかかる費用は、ペアローンも、単独で借入れる場合も同額です。トータルコストを試算して判断することが重要です。

契約が2本となることで、いくつかのメリットが出てきます。その一つが、住宅ローン控除です。

住宅ローン控除とは、個人が住宅ローンを利用して住宅を新築、購入、リフォームをする際に、一定の要件のもと、住宅ローンの年末残高の0.7%が所得税・住民税から還付される税額控除の制度です。なお、対象となる借入限度額や控除期間は、取得する住宅や取得時期、利用者の条件によって異なります。

制度の要件に適合すれば、夫婦それぞれが、自身の契約の年末残高に応じて、所得税等が還付されます。共働きで夫婦が所得税を納めていても、夫のみの単独借入れであれば、妻は住宅ローン控除を受けられません。住宅ローン控除を各自が受けられることは、メリットと言えます。

その他のメリットとしては、住宅ローンが2本となることで、返済期間や金利タイプなど、それぞれ異なる条件設定が可能となる点です。例えば、働く期間がより長く安定するだろう夫の住宅ローンを返済期間35年の固定型とし、妻を返済期間15年の変動型とする。また、年齢差のある夫婦の場合に、夫の住宅ローンを退職年齢に合わせて返済期間15年の変動型、妻を返済期間35年の固定型にして、夫リタイア後の返済負担を軽減する、などのプランです。ペアローンは選択肢が増えるため夫婦により適したプランニングが可能となります。

なお、死亡リスクには注意が必要です。住宅ローンの返済開始後、夫婦のどちらかが死亡すると、団体信用生命保険(以下、団信)によって死亡した人の住宅ローンは完済されますが、残された人は自分の住宅ローン返済は継続する事になります。このような場合も考慮し、各自の借入額・返済額を設定することも大切です。遺された家族の生活を考慮し、団信だけでなく生命保険で必要額を備える方法もあり、後半でご紹介するペアローン団信も選択肢の一つです。

【収入合算】
住宅ローンの借入額が希望額に満たない場合は、収入合算という方法もあります。収入合算では、配偶者や親、子など、同居予定の家族で安定的な収入がある人の収入を申込者の収入に合算して借入れを行います。ペアローンとの大きな違いは、住宅ローンの契約が夫(または妻)の1本となる点です。

なお、合算できる金額は、合算者の収入の全額だったり、合算者の収入の2分の1だったりと、金融機関によって異なるため、確認が必要です。収入合算者が連帯保証人になる場合と連帯債務者になる場合がありますが、民間金融機関では、連帯保証人となるケースがほとんどです。

【収入合算・連帯保証型】
連帯保証とは、住宅ローンの主たる債務者と連帯して住宅ローンを返済、保証することです。収入合算における連帯保証型では、契約は1本であり、住宅ローン控除は契約者のみ利用可能で連帯保証人は受けられません。団信も契約者のみとなり、連帯保証人に万が一のことがあっても、住宅ローン返済は継続します。

例えば、夫が主たる債務者の場合、夫に万が一のことがあると、団信によって以降の住宅ローン返済は不要となりますが、妻の万が一による、住宅ローン返済の免除はありません。世帯年収をあてにした返済計画は注意が必要です。なお、連帯保証では、主たる債務者に返済能力がなくなった場合にのみ、連帯保証人に返済義務が発生します。

【収入合算・連帯債務型】
連帯債務の債務とは、住宅ローンの借入れ(借金)です。連帯債務とは、夫婦が連帯して住宅ローンを返済していくもので、例えば、夫が住宅ローンの契約者の場合は、夫が主たる債務者、妻が従たる債務者となります。債権者である金融機関は完済まで、主たる債務者にも従たる債務者にも返済を求めることが可能です。

長期固定金利型の住宅ローン「フラット35」ではペアローンは組めませんが、収入合算にて夫婦で返すことが可能です。この場合、収入合算者は連帯債務者となります。連帯債務者には、所有権の持分があり住宅ローン控除が受けられます。

「フラット35」の団信には、「借入金利+0.18%」で夫婦のどちらか一方の死亡等の際、以降の返済が不要になる「デュエット(夫婦連生団信)」への加入も可能です。利用できるのは戸籍上の夫婦のほか、婚約関係にある方、内縁関係にある方、同性パートナーの方などです。

■団体信用生命保険について
あらためて団体信用生命保険(団信)について、確認しておきましょう。団信とは、住宅ローンの返済途中で契約者が死亡、高度障害状態になった場合に、生命保険会社が残債を金融機関に支払う仕組みです。団信契約における契約者は金融機関であり、被保険者は住宅ローンの債務者、住宅ローンの残高が保険金額です。団信に加入していれば、対象となる契約の負債は遺族には残りません。

ほとんどの民間金融機関では、団信への加入が住宅ローンの要件となっており、契約者の健康状態が問われます。なお、「フラット35」は、団信への加入無しも可能です。その際の住宅ローン金利は、「借入金利-0.2%」となります。加入を希望しない場合は、契約者に万が一のことがあった場合の債務負担について、十分に検討しておく必要があります。

■疾病保障付き団信など
団信の保障対象は、死亡、高度障害状態になった場合が基本です。ここ数年増えているのが、保障の対象にがんを加えた団信や、がん・脳卒中・急性心筋梗塞に備える三大疾病保障付団信、さらに、高血圧疾患、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変などを加えた七大疾病保障付団信などの様々なオプションメニューです。

基本保障の団信では、保険料が金利に含まれていたり、金融機関が負担したり、と住宅ローン返済以外には、支払いが発生しないケースがほとんどです。一方、オプション付きの団信では、住宅ローンの金利に上乗せされるタイプが多くあり、返済負担が重くなることには要注意です。団信は返済途中で加入することができないため、住宅取得時に保障内容とコストのバランスを長期視点で考慮しなければなりません。

■「ペアローン団信」新登場
ペアローンの場合、夫が死亡すると、夫の住宅ローンは団信により残債が完済され、妻の住宅ローンは、返済が継続する旨、すでにお伝えした通りです。夫の単独名義であれば、夫の死亡により住宅ローン全額の支払が不要となります。死亡リスクはペアローンの場合の注意点の1つです。

この点を解消するのが、「ペアローン団信」です。ペアローン団信では、どちらか一方の死亡等により住宅ローン全額の支払いが不要となる仕組みです。前述の【連帯債務タイプ】の項で述べた「フラット35」のデュエット(夫婦連生団信)」と同じです。2024年6月にPayPay銀行、同7月にみずほ銀行が取扱いを開始しました。10月にはりそな銀行・埼玉りそな銀行にて取扱いが始まる予定です。

ペアローン団信では、保険料相当分が住宅ローン金利に上乗せされます。みずほ銀行のペアローン団信は、がん団信のペアローン団信も含め、上乗せ金利は+0.2%。りそな銀行は、加入時年齢によって異なり、35歳未満であれば、+0.15%、35歳以上では+0.25%です。さらにペアがん団信ですと、それぞれ+0.25%と+0.40%となります。元となる住宅ローンの適用金利、申込時の諸費用、加入時年齢等も金融機関によって異なるため、総合的な比較が大切です。

◎ペアローン団信のポイント比較

みずほ銀行 りそな銀行
取扱開始日 2024年7月1日 2024年10月1日
名称 ペアローン団信
(一般団信のペア)
ペアローン団信
(がん団信のペア)
ペア一般団信 ペアがん団信
上乗せ金利 +0.2% +0.2% +0.15%
(加入時年齢35歳未満)
+0.25%
(加入時年齢35歳以上)
+0.25%
(加入時年齢35歳未満)
+0.40%
(加入時年齢35歳以上)
加入時年齢 満71歳未満 満51歳未満 満50歳未満 満50歳未満
9月度の適用金利 変動金利型0.375%~
10年固定型1.35%(ローン取扱手数料型)~
変動金利型0.340%~
10年固定型1.605%(融資手数料型)~

※保障内容、融資条件等、詳細は各金融機関のホームページをご覧下さい。

ペアローン団信の利用にあたって注意したいのは、税金です。例えば、夫死亡時の夫の残債に対する団信の保険金は、非課税です。一方、妻の残債に対する保険金は、一時所得となり課税の対象となります。一時所得として課税対象となる金額は、下記の計算式で求めます。

一時所得として課税対象となる金額 = (保険金 - 支払保険料総額等 - 50万円(50万円に満たない場合にはその金額))× 1/2

■ペアローン利用時の注意点
ペアローンは、夫婦共働きの世帯年収を前提としたプランゆえ、返済開始後の収入減少にもっとも気を配る必要があります。すでにお話しした団信の基本保障は、死亡時と高度障害状態になった場合に残額が完済されますが、病気やケガによる減収は、基本の団信ではカバーされません。夫婦の収入を前提にめいっぱい借入れをしていると、減収時の住宅ローン返済が大きな負担となります。ペアローンでは、高額借入れの場合ほど、家計収支や資産に余裕のあるプランにしたいところです。

ペアローン団信を利用する際は、金利が上乗せされます。例えば、借入額5,000万円、夫3,500万円、妻1,500万円のペアローン。返済期間35年、変動金利で比較した場合の毎月返済の差額は4,407円です。この差額を万が一の保険代として十分価値があると思えば、ペアローン団信が選択肢に入ってきます。

借入額 毎月返済額
0.375% 0.575%
3,500万円 88,934円 92,019円
1,500万円 38,115円 39,437円
合計額 5,000万円 127,049円 131,456円

■ライフプランの変化による注意点
死亡や病気、ケガによる減収についての注意点はこれまで述べてきた通りです。他にも、定年まで勤務予定だったが、子育てや介護で休職や退職して減収になったり、離婚により夫婦での返済が難しくなったりするケースもあります。ペアローンや収入合算は、夫婦で返済することを前提にしています。万が一の備えとともに、長期にわたって持続可能な返済計画を立てましょう。

※掲載の内容は2024年9月時点の情報です

大石 泉Izumi Ohishi
ファイナンシャルプランナー CFPⓇ。1級FP技能士。宅地建物取引士。産業カウンセラー。大学卒業後、株式会社リクルートへ入社。住宅雑誌の編集・制作に約15年勤務の後、’01年にFP事務所を設立。老若男女を対象に新聞による経済教育、ライフプラン、資産形成などの講座や研修を大学や企業へ展開。個人向けにはファイナンシャル・プランニング、ライフ&キャリアプランニングを提供。金融リテラシーの普及活動が評価され、金融庁と日本銀行から2014年度金融知識普及功績者として表彰される。