暮らしのTIPS住宅ローンの固定金利が上昇中!
対応策はどうする?
返済中、新規購入などシーン別に考える
October 24,2023

住宅ローンの金利が上昇しています。大手行は10月、前月に続き金利を引き上げ、高かった3月と同水準となっています。ですが、上昇しているのは固定型の住宅ローン金利。変動金利は、年初来の水準を維持しています。同じ住宅ローンなのに動きが違うのはなぜ?返済中の住宅ローンはどうすれば?新規購入や買換えの際の注意点は?シーン別の対応策を考えます。

住宅ローンの金利タイプは主に3つ

住宅ローンの代表的な金利タイプは、「全期間固定型」、「固定金利期間選択型」、「変動金利型」の3つです。「全期間固定型」は借入時に返済終了までの適用金利が確定するタイプです。金利が確定することで毎月返済額や総返済額が固定され、家計管理がしやすくなります。3年、5年、10年など一定期間の適用金利が固定されるタイプは「固定金利期間選択型」です。金利の固定期間終了後は市中金利に応じて返済額が増減します。「変動型」では年2回適用金利が見直されます。その他、預貯金残高に応じて利息がキャッシュバックされる預貯金連動型の住宅ローンなどを取り扱っている金融機関もあります。

住宅ローンの金利は、固定される期間が長いほど高くなります。例えばA銀行の10月の基準金利は、変動金利型2.475%、10年固定型3.55%、20年固定型4.05%です。借入れの際、これらの基準金利は条件に応じて優遇を受け、実際に返済する金利(適用金利)が決まります。

上昇しているのは「固定型」の住宅ローン金利

ニュースでも話題となっている近頃の住宅ローン金利の上昇は、「全期間固定型」と「固定金利期間選択型」。影響を受けるのは新規で借り入れる方です。「変動型」は、現時点では返済中の方も新規の方も影響無しという状況です。

先のA銀行の場合、年初来もっとも低かったのは10年固定型の基準金利で7月の3.25%(最優遇適用金利1.15%)。もっとも高かったのは3月と10月の同3.55%(最優遇適用金利1.45%)とプラス0.3%です。「全期間固定型」の代表である「フラット35」は、1月が1.68%、10月は1.88%とプラス0.2%。たった0.2%と思いきや、4,000万円を35年返済で借り入れると月額返済では4,024円、利息総額で169万円の差となります(元利均等返済、ボーナス払い無しの場合)。金利動向は、新規購入や買換えを検討中の方には重要ファクターです。

金利動向の鍵を握る日銀の金融政策

同じ住宅ローンでありながら、金利タイプによる金利動向の違いはどこから来るのでしょう。その鍵を握るのが日本銀行(以下、日銀)です。日銀は現在、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」政策に基づいて金融市場のお金を調整し、長期金利と短期金利の操作を行っています。所謂、「イールドカーブ・コントロール」です。2023年7月には長期金利の変動幅を拡げて柔軟化。これにより抑えられていた長期金利が一気に上昇。現在の上昇トレンドに反映されています。

この長期金利に連動しやすいのが、「全期間固定型」と主に10年以上の「固定金利期間選択型」の金利です。「変動型」の金利は短期金利との連動性が強く、日銀がゼロ金利政策を維持しているため、短期金利は動いておらず、金利差は開く一方です。

望ましいのは、賃金、物価、住宅価格、金利がバランスよく上昇、成長する経済です。賃金以上に物価が上がったり、長期金利だけが上がったり、というのはアンバランス。来るべきリバランスのタイミングでの短期金利上昇に備え、対応策を検討しておきたいところです。

住宅ローン金利の上昇に伴う対応策

「住宅ローン返済中」、「住替え検討中」、「新規購入の資金計画中」の3つのシーンで対応策を考えてみます。

1 住宅ローンを返済中の方

先ずは、現状把握。そして、必要に応じて住宅ローンの見直しを検討します。住宅ローンの現状把握のポイントは、「残高」「残期間」「金利タイプ」「優遇幅」「金利タイプの見直し条件」など。「全期間固定型」であれば、将来にわたって金利変動のリスクはゼロです。

「固定金利期間選択型」の場合は、固定期間の終了時期と更新時の条件をチェックします。固定期間終了時には、その時点の金利で更新。金利が上昇していると返済額が増額し、家計負担が増えてしまいます。金利上昇リスクを軽減するため更新時に全期間固定型を選択するのも方法です。しかしながら、更新時に固定型を選択すると手数料が必要となる住宅ローンもあるため、事前に確認しておく必要があります。

金利上昇リスクを回避する方法は、繰上返済、条件変更、借換えです。手元の余裕資金で繰上返済を行い、借入元本を減らしておけば、金利上昇時の家計負担を低減できます。条件変更は、借入先金融機関の条件に応じて、金利タイプを変更する方法です。「固定金利期間選択型」の特約期間は条件変更できない場合もあり、希望に合わなければ、他の金融機関への借換えを検討します。借換えは、新規借入れとなるため、諸費用も必要ですし、民間金融機関の場合は団体信用生命保険への加入が必須。健康状態が問われます。
固定金利が上昇トレンドの今、「変動型」から「全期間固定型」や「固定金利期間選択型」の借換えや金利の見直しは、返済額の上昇が見込まれます。返済継続可能なプランとなっているか、慎重に見極めましょう。

2 住替え・買換えを検討中の方

持家の売却を伴う住替えを検討している場合は、持家の査定価格が重要です。仲介会社のホームページなどで情報収集し、簡易査定や訪問査定で売却価格の目安を把握します。目安がわかれば、住宅ローンの残債を相殺できるのか、買換え物件の頭金にいくら充当できるのか、などが具体的となり資金計画が進みます。

持家の売却にあたって、住宅価格の上昇は追い風です。ただし、買換え先の物件価格や住宅ローン金利は上昇傾向、綿密な資金計画が大切です。終の棲家をお考えの方は長期視点でのプランニングが欠かせません。買換えには税制の特例もあり、プロの力を借りたいところです。

3 新規購入の資金計画中の方

新規購入の場合、もっとも大切なのは予算計画です。現在の年収から試算するだけでなく、将来の教育資金や老後資金、働き方などライフプランやキャリアプランとともに、予算計画を行います。住宅ローンは変動型とともに全期間固定型でも試算してみましょう。

変動型の試算では、例えば「5年後に金利が1%上昇したら家計負担はどうなる?」「固定金利期間が終了する10年後に金利が2%上昇していたら毎月返済はいくら?」など、金利上昇を想定して試算しておくと、不安が見える化され安心です。「変動型」では返済額が5年間固定される特約が付いているケースが多くあるため契約内容を確認しておきましょう。

なお、住宅ローン返済には、資金決済時の金利が適用されます。売買契約済みで、これから決済を迎える方は、資金計画時の金利と適用金利が異なる場合があります。適用金利で最終のシミュレーションをし、家計の返済余力を確認しておきます。

豊かな暮らしのために

住まいは自分と家族の豊かな暮らしのための土台です。教育資金も老後資金も確保し、将来にわたって豊かに快適に過ごすため、ライフスタイルや家計の変化に応じて、住宅ローンを最適化していきましょう。

物価や金利が上昇トレンドの今、日銀が短期金利の政策を修正するタイミングは、1年以内かもしれませんし、3年後、5年後かもしれません。備えあれば患いなしと申します。返済中の方も購入予定の方も、日銀の金融政策と金利動向に注目していきましょう。

※掲載の情報は、2023年10月時点の情報です。

大石 泉Izumi Ohishi
ファイナンシャルプランナー CFPⓇ。1級FP技能士。宅地建物取引士。産業カウンセラー。大学卒業後、株式会社リクルートへ入社。住宅雑誌の編集・制作に約15年勤務の後、’01年にFP事務所を設立。老若男女を対象に新聞による経済教育、ライフプラン、資産形成などの講座や研修を大学や企業へ展開。個人向けにはファイナンシャル・プランニング、ライフ&キャリアプランニングを提供。金融リテラシーの普及活動が評価され、金融庁と日本銀行から2014年度金融知識普及功績者として表彰される。