暮らしのTIPS 実家について改めて考える
離れて暮らす親が健康に暮らすための「住まいチェック」
January 14, 2025

離れて暮らす実家の安全性や快適性について、改めて考えてみませんか。年末年始に帰省した際、浴室やトイレが寒い、汚れが気になる、段差や階段に危険を感じる、災害や防犯への対策ができていないなど、不安を感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。離れていても共に健康に快適に、そして安全に暮らすために、実家の「住まいチェック」をしてみましょう。

実家への不安、離れて暮らす親の健康と快適のために

当時は最新だった実家の浴室も、歳を重ねた今となっては危険や不便があることも

築年数が経った実家への不安を抱える方は少なくないことでしょう。以前は便利で快適だった家も、親が高齢化するにつれ、危険が生まれたり、不便になっていたりすることが増えます。

例えば、床に段差がある、階段の上り下りに不安がある、冬場に浴室やトイレが寒い、災害や防犯対策が不十分といったようなことがあったら要注意。場合によっては命に関わることもあります。

他にも、家の中の汚れが気になるようになった、食生活が乱れてきている、といったような「生活の質の低下」に気付かれた方もいらっしゃることでしょう。

こういった不安や困りごとは、住まいの小さな工夫で改善していくことができます。離れて暮らしているからこそ、お互いが健康に快適に暮らし続けることが、安心した日々を送るために大切なこと。改めて、実家の「安全・快適チェック」をしてみましょう。

家が原因で起きやすい高齢者の「家庭内事故」を防ぐ

若い頃はなんでもなかった階段の上り下りも、親が高齢化するにつれて危険は増大します

厚生労働省の「人口動態調査(2022)」によると、家庭における不慮の事故で亡くなる人は年間16,000人近くに上り、そのうち65歳以上が90%近くを占めています。これは交通事故で亡くなる人の数倍にも及び、高齢者にとっては家の中も決して安全とは言えない状況です。

中でも家のつくりが原因で起きやすい家庭内事故が、「転倒・転落・墜落」と「溺死・溺水」です。

「転倒・転落・墜落」は、敷居など床の段差、床の上にある物でのつまずき、滑りやすい床材、階段の踏み外し、踏み台に乗っての作業などによって発生、高齢者ほど重症化しやすくなっています。

しかしこういった家庭内事故の原因は、高齢者自身では認識しにくく、消費者庁では「身近な人が環境改善を進める」よう注意喚起をしています。

特に築年数が古い家ほど、敷居に段差があったり、階段に手すりが不足していたり、収納不足で床が散らかっていたりといったことが多く、足元の事故が起きやすい状況にあります。

足元の安全性を確保するために、まずはできるところから始めましょう。
親子で一緒に整理整頓をして足元をすっきりさせる、敷居や段差にスロープを取り付ける、床に滑り止めワックスを掛ける、階段に手すりを付ける、危険個所は明るく照らすようにするだけでも、事故のリスクを減らし、安全に暮らせるようになります。

築20年を過ぎていたら、冬でも温かくお風呂に入れるシステムバスにリフォームを検討しても

家庭内事故で多い「溺死・溺水」は、主に浴室で発生しています。東京消防庁の「救急搬送データからみる高齢者の事故」によると、高齢者の事故で最も重症化しやすいのが「おぼれる」事故で、特に冬場に多く見られます。

この事故の主な原因となっているのが浴室の寒さ。寒い中、急に熱いお湯に入ると血圧や脈拍の急激な変動、心不全や脳卒中などを引き起こしやすくなり、毎年多くの方が浴室の事故で亡くなっています。

事故を防ぐためには、脱衣室と浴室を暖かく保ちつつ、ぬるめのお湯に短時間入るようにすることが大切に。

家の寒さは断熱性能に左右され、築年数が古い家は概して断熱性能が低いため、冬に寒いのが弱点です。暖房器具を設置したり、窓に内窓を取り付けて寒さの侵入を防いだり、断熱性能向上リフォームや温かさを維持しやすいシステムバスへの交換を検討したり。寒さ対策をしつつ、お風呂の入り方について改めて話し合ってみましょう。

家の中には、事故の原因になりやすいものがあちこちに潜んでいることがあります。実家に帰省した際には、特に「足元」と「寒さ」をチェックしておきましょう。

いざという時の「災害対策」「防犯対策」を忘れずにしておく

窓を守りましょう。いまどきは後付けがしやすいシャッターがあります

離れているからこそ、災害時や防犯について不安を感じている人は多いことでしょう。

内閣府の「高齢社会白書(令和6年)」によると、高齢者の家庭で、地震など災害への備えを「特に何もしていないと」回答した割合が3割を超えています。また最近の侵入強盗のニュースを受け、「住まいの防犯対策」を強化するよう、政府広報から注意喚起がされています。

まずは地震対策です。
実家の築年数を確認しましょう。1981年に耐震基準が改正され、それ以前に建てられた住宅は耐震性に不安があります。また、1981年以降に建てられた住宅でも、2000年に再度耐震基準が改正されているため、それ以前の木造住宅は金物の補強など必要になることがあります。信頼できる住宅会社に耐震診断を依頼し、安全性を確認しておくと安心です。

室内は、家具の転倒防止策を行い、食器棚などの扉が地震時に開いて中身が飛び出さないよう、耐震ラッチを取り付けておくと安心です。

非常食や非常用水、持ち出し袋などの準備も忘れずに。実家に帰省した際に、一緒に点検をして、不足分は補うようにすると安心です。大雨による浸水や土砂崩れの危険がある地域では、早めの避難が肝心に。当日にいきなりの避難は慌ててしまうこともあります。避難所までの移動方法を一緒に確認しておきましょう。

災害、防犯対策では、「開口部の安全性」を徹底的に高めることも重要です。
地震や台風、強風時に窓ガラスが割れると大けがをしてしまいます。また警察庁の「侵入窃盗の侵入口(令和4年)」のデータによると、侵入窃盗の7割以上が「窓」と「表出入口」からの侵入です。

手軽なのは、ガラスを割られにくくする「防犯フィルム」を貼る方法です。ただし熱ごもりでガラスにひびが入るリスクがあること、マンションの場合は管理組合に確認をしましょう。一戸建ての場合は、鍵付きの雨戸やシャッター、面格子などを取り付けておくと、安全性が高まります。

玄関ドアはツーロック(2つの鍵を取り付けること)にし、カメラ付きインターホンや宅配ボックスを活用して、来客時には知人以外はドアを開けないで済む工夫をしておきましょう。いざという時のために、ホームセキュリティを導入するのもいいでしょう。

親子でよく話し合いながら、地震、台風や強風、大雨、そして防犯への対策をして、安心して暮らせる環境を作りましょう。

生活の「質の低下を防ぐ」、遠隔からの見守りの工夫

工事が不要でその日から安全に楽に調理ができる卓上のIH調理器。操作が簡単で座ったままテーブルの上でも調理ができます(卓上IH調理器 KZ-PH34/パナソニック

高齢になると家事が負担になり、既製品のお惣菜が増えて栄養のバランスが偏りがちになったり、掃除が行き届かなったり。遠くに住んでいると目が届きにくいため、知らない間に生活の質が低下しているのではと心配になることもあるでしょう。

また暑さ寒さを感じにくくなるため、適切な室温管理ができず、熱中症などの健康リスクが高まる不安もあります。

そんな時は、安全性が高く使いやすい「IHコンロ」や、高さを抑えた洗濯機や冷蔵庫などシニア向けに配慮がされた家電を取り入れるなどの他、実家の様子を遠距離からでも確認できる「見守りカメラ」の設置や、「エアコンのIoT化」をする方法もあります。

見守りカメラがあれば、普段の様子をリアルタイムで見ることができ、IoTに対応したエアコンなら遠隔で室温の検知や、使用状況を確認することができるように。離れていても様子が分かるようにしておくと、何かあった時にも対策が立てやすく、安心感が高まります。

広角レンズで広い範囲を映すことができる見守りカメラ。動作、音、温度を検知し、反応するとスマートフォンに通知が届いて映像の確認ができます(内HDカメラ KX-HRC100/パナソニック

遊びに行きたくなる家にすることも

住む人も来る人も居心地のいい実家にすれば、自然に遊びにいきたくなることでしょう

小さな子供たちにとって、実家に帰省するのは楽しみな一方、「お風呂やトイレが汚い」、「暗い」、「怖い」、「寒い」など、古い水まわりを苦手に感じている声を聞くことがあります。

水まわりだけでなく、冬は寒い、夏は暑い、寝る部屋のプライバシーがない、授乳スペースがない、片付いていない、子供に危険な個所があるといった困りごとがあるケースも。

築20年を過ぎているなら、そろそろリフォームを検討してもいい時期です。少し手を加えて、住む人も来る人も快適に過ごせる家になるよう考えてみてはいかがでしょう。きっと自然に遊びにいきたくなるような、居心地のいい実家になります。

離れて暮らしていても、家族の幸せは繋がっています。共に安全に快適に過ごせる家を目指して、まずは一歩を踏み出してみていただければと思います。

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一級建築士事務所 OfficeYuu代表Yuu(尾間紫)Yuu(Yukari Oma)
一級建築士、 インテリアコーディネーターとして数多くの現場経験や相談実績をもち、住宅リフォームコンサルタントとして快適な住まいづくりのノウハウを発信している。