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複数の地域に拠点を構えて生活をする「二拠点生活」。その地域ならではの生活が楽しめるほかにも、自分自身の生き方や暮らし方を見つめ直すきっかけにもつながるようです。今回取材をさせていただいたのは、東京と淡路島で二拠点生活をしている起業家の山川咲さん。多くの事業に携わりながら新しい価値を生み出し続ける一方で、さまざまな住まいや地域で生活してきた山川さんの体験談から、二拠点生活の魅力に迫ります。
山川さんは2023年より、東京をメインの拠点としながら淡路島にもセカンドハウスを構え、二拠点生活をスタートさせたと言います。今回取材で訪れた淡路島の住まいは、四季折々の風景や青々とした瀬戸内海など、豊かな自然を臨む小高い丘の上にありました。
「幼少期に父が運転するワゴンカーに乗って、日本中を巡りながら生活をしていた時期があるんです。その後に住居を構えた場所も自然が豊かな地域だったので、昔から自然は身近な存在でしたね」
自身と自然との関わりについて話す山川さんですが、実は小さい頃は自然の中での生活が好きではなかったと振り返ります。
「当時の生活は、お風呂を沸かすのにも薪が必要だったので、すごく手間がかかっていました。また、都会で生まれ育ったこともあって、田舎暮らしを始めたときは周囲の人たちと価値観が合わないと感じることもありました。こうした経験から『みんなと同じでいたい』と考えるようになりましたし、『認めてもらいたい』という気持ちから上京して一旗あげようという想いも強くなっていきましたね」
都会で生活しながら、ビジネスシーンの最前線を走り続けてきた山川さん。しかし、多忙な日々を過ごす中で、自分を見失う時期もあったと振り返ります。
「心身の限界を感じたときは、仕事や都会を離れ、海外や離島で生活をしていました。そんな自分を癒してくれたのが、朝日や夕日、透明な水といった美しい自然の風景だったんです。そのときに、人が幸せに生きるためには自然の力は欠かせないんだと、改めて気づかされましたね」
CRAZY WEDDINGから独立した後は、仕事第一だった生活に変化が生まれ、自然の中で過ごす時間を大切にするようになったという山川さん。自分自身と向き合うために、3ヶ月ほど奄美大島で生活をしたこともあると言います。そのまま移住する選択肢も頭をよぎったそうですが「仕事を含めた東京での暮らしも刺激的で気に入っていたため、まだそのタイミングではないのかな、と思い直すことにしました」と振り返ります。
そんな山川さんが、淡路島に拠点を構える決断をした理由を聞いてみました。
「もともと『家が変わると人生が変わる』と信じていたこともあって、そのときどきの環境や求めるものに合わせて、都内のいろんな家を移り住んできたんです。また、仕事でさまざまな地方に行くことや、自然豊かな場所で過ごす機会も増えてきたことで、いつしか『都心から離れた場所にも拠点を持ちたい』と考えるようになっていました」
セカンドハウスをこの場所に決めたのは、「ご縁」によるところが大きかったと言います。
「仕事の関係で徳島県の神山町に通っていたのですが、そのときに淡路島にある宿を利用していました。その宿の雰囲気がとても素敵で気に入っていたところ、知人を介して建築をされた方とお会いすることができ、しかも『この場所に新しい住居を建てようと思っているので生活してみませんか』と誘っていただいたんです。『このご縁を大切にしたい』と強く感じたことから、迷うことなく決断しましたね。また、淡路島は離島でありながらも都会との距離が近く、都会と離島のいいとこ取りをした場所だと思ったことも決め手になりました」
住まいについて、山川さんは「自然が近くに感じられること」を設計のポイントとして挙げます。
「まずこだわったのが、薪で火を起こす生活でした。そのため、薪ストーブや焚き火台を設置し、お風呂も薪で沸かすスタイルとしました。小さい頃は嫌だったのですが、今振り返ると素敵な体験だったと懐かしく感じたことが理由です。また、大開口の窓を採用し、窓を開くと室内と外がシームレスにつながる設計とすることで、室内にいながらも外で過ごしているような感覚を楽しめるようにしました」
淡路島での過ごし方について、「朝日を見るのがとても好きなので、絶対と言っていいほど早起きしています。それから朝日を見たり、焚き火をしたり、庭で栽培しているミントの葉でお茶を淹れたりして過ごします」と嬉しそうに話してくれました。
東京と淡路島での生活の違いについて話を聞くと、山川さんは「時間の流れる感覚がまったく違います」と答えてくれました。
「都会はどうしても仕事や喧騒との距離が近いため、ゆっくり過ごすことにさえ努力が必要だと感じてしまいます。また、効率的な動きが求められる局面が多く、いつの間にか時間が過ぎてしまっています。淡路島での生活は外的な要因で気が急くことが少なく、仕事をしているときでさえ時間がゆっくりと流れている感覚があるんです。また、薪を使ったり草むしりをしたりと都会にはない忙しさがありますが、この効率や時短とは真逆の暮らしが楽しいと感じます。今は、効率化の中で削ぎ落とされていった営みの中にこそ、幸せに暮らすためのヒントや心身を満たすものが隠れていると思っています」
また、東京と淡路島を行き来する生活をする中で、モノに対する価値観も変わってきたと言います。
「この住まいにはトランク一つに荷物をまとめて来ることが多いのですが、限られたモノだけでも十分に充実した生活ができています。移動が多い生活になったからこそ、本当に暮らしに必要なモノは実は少ないのだと気づかされました。だから今、東京の住まいでも少しずつ断捨離を始めているんです」
その一方で、都会で生活することの魅力についても話をしてくれました。
「自然の中での生活は、自分自身と向き合う時間を取りやすく、内側から自分を変えていけると思っています。一方で都会というのは、世界や多種多様な人とすぐにつながれる環境があり、世界を変えていくためのパワーが溢れている場所だと感じています。自分を変えること、世界を変えること、両方を大切にしたいから、しばらくは両方の暮らしを楽しんでいきたいですね」
山川さんは「自分自身を見つめること」そして「変化していくこと」を人生の中で特に大切にしていると言います。
「変わらない日々を繰り返すことは、気持ち的にとてもラクなのは知っています。それでも私は、いつも違う毎日を生きていたいという気持ちが強いです。今の自分自身を見つめ、振り返り、新しい自分を探求していくこと。それこそが生きる意味だと思っています。人生に正解はないかもしれません。ただ一つ、『変化すること』だけは正しいと信じています。だからこそ『新しいことをやる』姿勢を大切にしてきましたし、さまざまな経験を重ねることに喜びを感じます」
ビジネスでもプライベートでも、「一つの物事を深く突き詰めるよりもいろんなことにチャレンジしていきたい」と話す山川さんですが、もともとは完璧主義者だったと振り返ります。「ビジネスを通じてさまざまな方とご一緒する中で、何年もかけて一つのことを完璧にするよりも、未完成でもまずはやってみて、そのうえでブラッシュアップしていくほうが最終的により良いものが生まれると実感しました。暮らしにおいても、以前はレシピを完璧に再現した料理をつくっていましたが、今はいい意味で力を抜いて料理をつくっていますし、そのほうが一緒に食べる人も楽しんでくれています」と話します。
もちろん、変化することの重要性を理解していたといても、さまざまな事情によって行動に移すことが難しいと感じている人もいるかと思います。それに対して山川さんは、「小さなことからでも、短い時間でもいいので、まずは試してみることが大切ではないでしょうか」と答えてくれました。
「たとえば二拠点生活を検討されている方の場合、いきなり二拠点先を探したり住まいを購入したりするのではなく、定期的にどこかに通うライフスタイルを試してみるのはどうでしょうか。毎月1日や2日でもいいので、リーズナブルな貸し別荘などを借りてみて、擬似的に二拠点生活を体験してみるんです。私の場合は『自然が好き』という前提があり、携わっている事業を通じて自然のそばで生活する機会にも恵まれていました。さらにご縁があって淡路島での生活をスタートさせましたが、暮らしの中で何を大切にするかは人それぞれ異なりますし、『これが好き』という具体的なイメージが持てないことには大きな決断は難しいと感じます。だからこそ、頭の中だけで考えるのではなく、まずはできるところからアクションしてみてほしいと思っています」
最後に、山川さんが今後取り組んでみたいことについて聞いてみました。
「この淡路島の住まいですが、私が住んでいない期間は別荘として貸し出しを始めています。この別荘は『人生の潮目が変わる場所』という意味を込めて『CURRENT』と名付けたのですが、これから利用される方にとっても人生が変わるような体験が提供できたら嬉しいですね。もちろん私自身も、年間で2ヶ月程度を基準に引き続き淡路島での生活は続けていくつもりです。また少し先の夢になりますが、九州がとても好きなので、いつかは鹿児島やその他のエリアにも新しい拠点を持ってみたいと思っています」
自分自身と向き合うための場所や機会をつくること。変化を楽しみ、小さなことから取り組んでみること。山川さんの考え方や日常の過ごし方は、二拠点生活を考えるうえで大きな指針になるのではないでしょうか。