LIFESTYLE「ウェルビーイングをめぐる旅」第5話
「ハーブの楽園」で過ごす中で、本来の自分を取り戻す
September 12, 2023

発酵活動家の田中菜月さんが各地を旅し、さまざまな人と交流を重ねながら、自分らしく生きていくためのヒントを見つける連載企画「ウェルビーイングをめぐる旅」。第5話となる今回は、富山県立山町にあるHealthian-wood(ヘルジアン・ウッド)を訪れました。「ハーブの楽園」を目指して誕生したこの空間では、自然そのものの力を活かした料理やスパ、サウナなどを楽しむ中で、自分自身のあり方を静かに見つめ直すことができます。同施設を立ち上げた前田大介さんが考えるウェルビーイングとは何か、話を伺いました。

田中菜月Tanaka Natsuki
発酵活動家、Well-Traveling YouTuber、ヨガニードラ講師。料理教室やオンラインサロンの運営を通じて、発酵文化を楽しく、美しく、面白く発信中。著書に「ゆるくてしあわせな発酵生活」がある。
前田大介Maeda Daisuke
前田薬品工業株式会社の3代目として、ジェネリック医薬品やスキンケア商品の開発に携わる一方、製薬会社の枠組みにはまらない多彩な事業を展開。2020年3月にオープンさせたHealthian-woodを「世界一美しい村」に育てるべく活動中。

ハーブの香りに心も体も救われた。

Healthian-woodに到着すると、洗練された建物の造形や、一面に広がるハーブの彩りに思わず目を奪われます。田園風景の先には、雄大な立山連峰と美しくきらめく富山湾がダイナミックに広がり、自然の恵みを全身で感じることができます。

「敷地内を散歩しているだけで、いろんなハーブの香りが感じられたり、たくさんの鳥の鳴き声が聞こえてきたりして、体がとても軽くなっている気がします。ただここにいるだけで、自分の五感が開かれていく。そんな場所だと感じました」

そう話す菜月さんに、前田さんは「ありがとうございます」と微笑みます。

製薬会社の3代目として活躍する前田さんは、「薬の起源であるハーブや薬草にフィーチャーした村をつくりたい」という想いを形にするためにHealthian-woodをつくったのだと言います。

「ほとんどの人は、薬が嫌い、あるいはなるべく使用したくないと考えているのではないでしょうか。もしもずっと健康でいられれば、薬に頼る必要はなくなります。Healthian-woodは、食やボディトリートメント、コミュニティでの健やかな交流などを通じて、人間が本来持っている力を発揮して健康になっていける。そんな理想を描いてオープンした場所なんです」

両親の健康意識が高く、小さな頃からオーガニックな食材や商品に触れてきたという前田さん。少年時代は、川や田んぼといった自然の中で遊ぶことが当たり前だったと言います。「だから体に取り入れるものは無意識にこだわってきましたし、自分を育んでくれた富山の豊かな自然を大切にしていきたいと考えてきました」と振り返ります。

「小さな頃から自然の力を信じてこられたんですね。自然を大切にした生活を続けていると、心身ともに健康的に過ごしていける気がします」

前田さんの原体験に触れて感心する菜月さんに、前田さんも「だからずっと病気知らずだったんです」と答えます。

「ただ、2013年に会社の経営危機に直面し、そのときはさすがに体調を崩してしまいました。そんな自分を救ってくれたのがハーブだったんです。それまでハーブは自分の中で『ファッション的に使われるもの』と捉えていたんですが、調べていくうちに医薬品の認証を持ったアロマオイルが存在することや、薬の起源がハーブであることを知りました。そこから製薬会社目線でハーブの栽培やアロマオイルの抽出に取り組んでいきたいと考えるようになったんです」

健康のために生まれてきた国産アロマブランド「Taroma」

自然の力がもたらす、至福のひとときを。

「ハーブの楽園」を目指して誕生したHealthian-woodは、多種多様な和ハーブが広がるハーブガーデン「The Garden」、ハーブから精油を抽出する工房「The Workshop」の他にも、さまざまな施設が誕生し続けています。

「足を運んでいただいた方たちにハーブやアロマの力を感じてもらいたい。こうした想いから、ゆっくりと滞在できるような施設づくりを目指してきました。ただ、すべてを計画的に進めてきたわけではありません。2022年に『The Hive』というサウナが完成したのですが、もともと私はサウナが苦手でつくる予定はありませんでした。ただ、この場所を訪れた方からサウナの魅力を教えていただき、改めて入ってみるとすごく気持ちが良くて、『それだったらつくってみよう』という機運が高まったんです。Healthian-woodは、人とのご縁によって発展していっている場所と言えるかもしれません」

偶然の出会いを大切にしながら、変化を寛容に楽しむという前田さんの姿勢に、菜月さんは「前田さんが良いと感じたものやご縁を大切にされてきたから、この心地よい空間が生まれたんですね」と感心します。そして、実際に各サービスを体験させてもらうことになりました。

開放感あふれる「The Kitchen」、個室で大切な人とゆったり過ごすことのできる「The Table」という個性の異なる2つのレストランでは、その季節ごとに採れるハーブや地産の食材を活用した、オリジナリティあふれる料理を提供しています。立山の雄大な風景と一つになりながら、その土地で育まれた自然の恵みを大切に味わうことができます。

オールハンドのトリートメントが受けられる「The Spa」では、アロマ工房で抽出したエッセンシャルオイルを使用。心安らぐハーブやアロマの香りと、丁寧なボディトリートメントによって、その人が本来持っている健やかな美しさを引き出します。

土の中のサウナホテル「The Hive」。温度の異なる2種類のサウナルームは、ハーブの香りを感じながら思い思いの時間を過ごせる空間になっています。しっかりと体を温めた後に、立山連峰の雪解け水を汲み上げたかけ流しの水風呂に入れば、極上の「ととのい」を体感することができます。

これらを体験した菜月さんは、とても晴れやかな表情を浮かべ、「すべての施設・サービスが、自然の力を大切にし、その魅力を存分に引き出すように設計されている印象を受けました。自然の力が心身に染み渡っていき、満たされていく感覚です。日常の中でも、ハーブウォーターやアロマといった自然の力を取り入れることで、幸福感が得られるのではないかと思います」と感想を話してくれました。

ウェルビーイングが身近になる場所を目指して。

富山県は近年、「ウェルビーイング先進地域」と銘打ち、ウェルビーイングの推進に力を入れています。前田さん自身も、この活動に委員として関わっているのだと教えてくれました。

「富山県も含めて、今後日本のほぼすべての地域が人口減少という課題に直面すると思います。こうした課題に対して、関係人口を増やすという施策は多くの自治体で行われていると思いますが、富山県ではこの関係人口という言葉を『幸せ人口』と呼び、『1000万人の幸せ人口をつくること』を目標に掲げています。Healthian-woodも、幸せ人口を増やすためのきっかけになれば嬉しいですね」

さらに前田さんは、ウェルビーイングという概念がもっと身近なものになればいいと続けます。

「ウェルビーイングを論理的に理解しようとすると、どうしても難しく捉えてしまうのではないでしょうか。そうではなく、もっと情緒的、感覚的な概念になればいいなと考えています。それこそ『How are you?(元気ですか?)』のように、相手が満たされているかを『どう?最近ウェルビってる?』みたいに気軽に話し合えるようになれば、ウェルビーイングがもっと身近なものになると思うんです」

「ウェルビーイングを動詞として使うのは、とても面白いですね。このHealthian-woodはまさに、それぞれが思い思いの過ごし方をする中で、自分にとっての『ウェルビる』とは何かに気づくことのできる場所だと感じています」と菜月さんは深く共感していました。

日常という土台があるから、人生が満たされていく。

最後に、「わたしたちのウェルビーイングカード」を使って、前田さんが考えるウェルビーイングを深掘りします。カードに書かれた32種類の言葉の中から、気になる3枚を選んでもらいました。

「1枚目には『日常』を選びました。実は先週1週間が非日常的な忙しさで、かなり疲弊してしまったんです。だから今日は、私の日常であるこの場所に帰ってくることができて、心からホッとしています。次に選んだのは『縁』です。この日常が続いているのは、製薬会社の経営だけをやっていたら会えなかったウェルビーイングな人たちとのご縁によるものだと思うからです」

その話を聞いて菜月さんは「『日常』というのはすべての土台になるものですから、そこが疎かになってしまうと、すべてのバランスが崩れてしまう気がしますね。きっと、大切にしている日常があるからさまざまなご縁も大切にできるのではと思いますし、前田さんの日常もどんどん新しくなっていくんだなと感じました」と頷きます。

「3つ目の『時間を超えたつながり』は、どんな想いでチョイスしたんでしょうか?」

「最近、奈良県の吉野にある杉を見に行く機会があったんですが、杉というのはその土地の人たちが何代かにわたって育てて、数百年後に伐採したときに、初めていい出来かどうかがわかるそうです。また、Healthian-woodの近くでドンペリニョンの最高醸造責任者だった方が、ドンペリニョン数百年の歴史を汲んで日本酒づくりに取り組み始めています。これらの現実に触れたときに、一人の人間の力だけでは不可能なことも、『時間を超えたつながり』があれば形にできると気づかされたんです。普段の暮らしの中ではなかなか意識することが難しいつながりに目を向けることで、人生はもっと豊かでロマンに満ちたものになっていくと感じますし、そのロマンを追い求めることがより良い生き方にもつながっていくと思っています」

「この地域で昔から育まれてきた自然や、生活してきた人たちと向き合うことも、まさに『時間を超えたつながり』ですよね。これらと向き合い発展してきたHealthian-woodはまさに、ウェルビーイングな生き方をじっくりと見つめ直すことができる場所だと感じました」

日常という安心できる土台があるからこそ、新しい出会いや時間を超えたつながりと大切にすることができる。自然の力に身を委ね、大切な日常と向き合う時間を持つことが、ウェルビーイングを高める第一歩になるのかもしれません。