LIFESTYLE建設/解体を繰り返すマンションギャラリーの常識を問い、
「博物館」として建物のストーリーを伝える
「プラウドギャラリー五反田」
August 8, 2023

野村不動産が展開する「プラウド」シリーズの販売拠点のひとつとして、2022年にオープンした「プラウドギャラリー五反田」。建築家の大野友資さんが設計を手がけた同マンションギャラリーでは、都内各地にあるプラウドギャラリーシリーズとは異なり、従来のモデルルーム/商談スペースの常識を再定義するような、あらたな可能性が提案されています。野村不動産にとっても挑戦となったプロジェクトの背景について、事業推進一部の竹内さんとDOMINO ARCHITECTS代表の大野さんにうかがいました。

竹内優Takeuchi Masaru
野村不動産住宅事業本部推進一部に所属。住宅事業における土地の購入から、設計・現場管理・販売・引き渡しまで、プロジェクトの推進役を担っている。
大野友資Ono Yusuke
DOMINO ARCHITECTS代表/FICCIONES所属/東京藝術大学非常勤講師/一級建築士 1983年ドイツ生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院修士課程修了。カヒーリョ・ダ・グラサ・アルキテットス(リスボン)、ノイズ(東京/台北)を経て2016年独立。2011年より東京藝術大学非常勤講師、2023年より東京理科大学非常勤講師を兼任。

建設と解体を繰り返すマンションギャラリーへの問題提起

五反田駅から徒歩10分ほどの場所に位置する「プラウドギャラリー五反田」。現在、複数のプラウドの販売を行う商談ルームおよびモデルルームとして使用されているほか、セミナーやワークショップといった各種イベントを行う場として活用されています。

当ギャラリーの設計を手がけた建築家の大野さんは、2023年11月に竣工を控える「プラウドタワー目黒MARC」(現在物件は全戸完売)1―2階の会員制共用スペースの設計デザインも手がけています。設計を依頼した竹内さんは、大野さんの独自の視点から飛び出すアイデアや解釈におもしろさを感じていたそうです。

「打ち合わせの際に、大野さんはいつもさまざま視点からのアイデアをどんどん持ってきて下さっていました。大野さんはただ格好良いものをつくるのではなく、誰もが共感できる使い手の立場に立った提案や、社会的な背景を含めた客観的なアプローチで建築に取り組まれているので、当時もやもやしていた新しいマンションギャラリーの方向性を、一緒に考えていただけるのではないかと思ったんです」

依頼を引き受けた大野さんの頭に最初に浮かんだのは、マンションの販売のために建設され、役目を終えると同時に取り壊されてしまうマンションギャラリーのあり方そのものへの疑問でした。「それっておかしくないですか?」という大野さんの言葉にはっとさせられたという、当時のことを竹内さんは振り返ります。

「建設と取り壊しを繰り返す、マンションギャラリーの慣習に対しての大野さんの声は、率直におもしろいなと感じました。マンション事業の一環として、どこか仕方がないこととして捉えてしまっていたことに、自分自身気付かされましたね」

デベロッパーや、イベント展示空間などを専門に手がける企業によって建設されることが多いマンションギャラリーを、大野さんのような建築家が手がけるケース自体異例のことでもあります。大野さんはどのような姿勢で取り組まれたのでしょうか。

「建築においてももっとも価値のあることのひとつは、現状への批評として成立することだと僕は思うので、マンションギャラリーを題材に、建築家としてのメタ視点を持って取り組みたかったというのがあります。業界内のこれまで通りのやり方ではなく、建築家が立ち入ることのなかったマンションギャラリーという領域を、僕らがどのように捉えたのかを提示できればと考えました」

マンションギャラリーにおける「一般解」の提案

プロジェクト当初から大野さんは、マンションギャラリーの「一般解」を目指すことを掲げていたといいます。「プラウドギャラリー五反田」は複数の物件を扱う予定があった上、商談スペースとしてだけではなく、アクティビティの場として活用することが構想されていました。それらの要件を満たすために、特定の物件を売る空間としての「個別解」ではなく、マンションギャラリーが持つ機能を一般化することで、空間に柔軟性を生み出すことがプロジェクトのキーとなりました。

「できるだけフレキシブルな空間を設計するために、まずはマンションギャラリーが持つ機能を図式化してみたんです。今回の場合、営業の方々の執務スペースと、販売中のマンションの一部屋を再現したたようなモデルルームのスペース、そして商談スペースに分けられます。スタッフの執務スペースはコンパクトにできることがわかったので、それ以外のスペースを広く確保し、カーテンで空間を区画するアイデアを提案しました」

カーテンによるレイアウト変更例を示すダイアグラム
カーテンを移動させることで、セミナーやワークショップといったイベント空間へと変化させることができます。

商談スペースとして使用できることはもちろん、カーテンを動かすことで自由に空間の用途を変更できる、フレキシブルなマンションギャラリーの提案。大野さんと竹内さんをはじめとするプロジェクトチームは、空間の主役となるカーテンデザインの検討を重ねたそうです。

モックアップ制作のプロセスで生まれたのは、カーテンに小口をつくり、20cmほどの厚みを持たせた「たためる壁」というアイデアでした。「1枚の布だと頼りないかもしれませんが、厚みが生まれたことで区切られた空間に建築的な雰囲気が生まれ、お客様とのコミュニケーションが生まれる商談スペースとしての安心感が生まれたと思います」と大野さんは解説します。

「たためる壁」のデザインでは、空間にお客様を迎える動線側をゴールドにすることで高級感を演出。使用する素材と仕上がりの検証にあたっては、実際に商談を行う野村不動産の営業スタッフと議論を重ねたそうです。
「たためる壁」の開発は、さまざまな空間のテキスタイルデザインを手がける「オンデルデリンデ」とのコラボレーションによって実現しました。

建物のストーリーを伝える「博物館」としての高級感

空間内に配置された建築素材。プラウドタワー目黒MARCの建設時に使用されたモックアップや廃材から、マンションができるまでのストーリーを感じることができます。

「たためる壁」に加え、「プラウドギャラリー五反田」の特徴として目を引くのは、空間内に配置された建築素材の数々。実際にプラウドタワー目黒MARCの建設現場で使用されていたモックアップや建材、さらには建設プロセスで生じた端材や廃材を空間内に展示することで、建物が生まれるまでのストーリーを感じてもらうことが、大野さんの意図としてあったそうです。

「マンションがつくられる過程が感じられるものを配置することで、営業の方がお客様に話すネタになるんじゃないかと。アンティークや骨董品に価値が生まれるのは、それらが辿ってきた歴史や由来、そこに注がれてきたエネルギーを感じるからだと思うので、建築においても、建物ができるまでのストーリーを伝えることが、豊かさや高級感を生むのではないかと考えました」

ギャラリー1階の奥に設置された割栗石。建設現場で使用される道具とともにあえて照明や構成を演出して配置することで、どこかアートピースのような独特な佇まいが生まれています。
モデルルーム前のカウンターの壁には、コンクリートを流し込む際に使用される型枠が展示されています。

マンションが生まれるまでのストーリーを語るというアイデアは、「博物館」としてのマンションギャラリーの提案でもありました。ストーリーによって生まれる高級感という、これまでにはなかったラグジュアリーの解釈には、竹内さんも目を見開かされたといいます。

「従来のモデルルームでは、石材やタイルといったわかりやすくラグジュアリー感のある素材を使用することで、販売する物件に相応しいマンションギャラリーとしての高級感を表現していました。今回の仕上がった空間は、一つひとつの素材が引き立つことで高級感や上品さが生まれていて、これまでの野村不動産のアプローチとは異なる、新たな表現方法を提示いただいたように感じています」

「大きな言葉」として語らないサステナブルの実践

2022年のオープン後、イギリスのデザインメディア「Dezeen」のショートリストに選出されたこともあり、「プラウドギャラリー五反田」のあたらしい提案に対してさまざま声があったと竹内さんは語ります。野村不動産の中でも多様な反響が生まれ、社内で他の担当者からプロジェクトの経緯を尋ねられることもあったそうです。

「プラウドギャラリー五反田」の取り組みは、SDGsの項目にもある「つくる責任」「つかう責任」を、マンションギャラリーの観点から見直すきっかけにもなったのではないでしょうか。プロジェクトを振り返った感想をあらためてうかがうと、大野さんの中ではサステナブルへの意識が念頭にあったわけではなかったといいます。

「サステナブルといった言葉を旗印にしてしまうと、そちらに引っ張り回されてしまうのではないかと思うので、普段からできるだけ大きい言葉でものを考えないようにしているんです。今回も課題を解決しようと思っていたたわけではなく、単純にもったいないと感じたからこのアプローチを提案しましたし、他のプロジェクトにおいても、つくる必要性が感じられなかった場合は素直にそう伝えるようにしています。建築をつくる上では、クライアントの利益という文脈だけではなく、建築が都市や環境に与える文脈、そして設計者である僕らの腑に落ちる文脈とのちょうどいいバランスを探るようにしているため、その結果としてサステナブルである、という状態がいちばん心地よいのではないかと考えています」

ロンドンで行われたDezeenの受賞者パーティーに参加したという大野さんと竹内さんは、街を歩きながら建築を見て周り、さまざまなことを語り合ったといいます。その中で大野さんは、竹内さんが話す野村不動産のものづくりの姿勢が印象に残っているそうです。

「ロンドンに行った時に竹内さんから聞いたストーリーですごくいいなと思ったのが、野村不動産さんのマンションは、ずっと住み続けることを前提に購入される方が多いということでした。マンションは投資目的で購入されることも多いですが、長い時間をかけて人々が暮らすことを前提にした野村不動産のマンションづくりこそ、いちばんのサステナブルな実践なんじゃないかなと思います」

最後に、プロジェクトを振り返った上でのこれからの仕事にかける想いを竹内さんにお聞きしました。

「『プラウドギャラリー五反田』の特徴でもあるカーテンや廃材は、これまでも当たり前のように使用されていた素材だったので、今回のプロジェクトを通して、見過ごされていたものを別の角度から見ることの気づきを得ることができました。ここで生まれた新たな視点を活かしながら、これからの物件においても、10年後、20年後も住み続けていただけるものづくりを目指していきたいと思います」

新たなマンションギャラリーへの挑戦の裏側についてうかがった本取材。身近なものに目を向けた先にこそ、サステナブルのための新たな気づきがあるのかもしれません。