LIFESTYLEアメリカのムーブメント「10 Minute Walk」に見る、
徒歩10分以内に公園のある豊かな暮らし
November 30, 2022

在宅ワークやソーシャルディスタンスへの意識が浸透し、公園や緑地など、開放感あふれる屋外空間で過ごす時間を求める人が増えました。住まいを探す際に、近所に公園があるかどうかを重視する方も多いのではないでしょうか。
国外に目を向けても、アメリカでは、すべての人が徒歩10分以内に公園にアクセスできるよう環境を整備する「10 Minute Walk」という活動が広まっているそうです。10 Minute Walkがどういう経緯で生まれたのか、近くに公園がある生活にはどのような価値があるのか。同活動を推進している非営利団体「The Trust for Public Land(以下、TPL)」のBianca Shulakerさん(以下、ビアンカさん)に話を伺いました。

ビアンカ シュレイカーBianca Shulaker
TPL所属。10 Minute Walkのシニアディレクターとして、多くの市とパートナーシップを構築。公園開発に関する政策提言や技術支援などに精力的に取り組む。

すべての人が徒歩10分以内に
公園に通える暮らしを。

TPLは、公園や遊歩道などのグリーンスペースを、アメリカ各地に建設している団体です。その使命は、緑地の整備・保護を通じて、人々の健康の増進や環境保護、経済的発展に寄与することにあります。
TPLが10 Minute Walk活動を始めた理由について、同団体のシニアディレクターとして活躍するビアンカさんは次のように教えてくれました。

「10 Minute Walkが正式に発足したのは、2017年10月のことです。公園は人々の生活を豊かにしてくれる場所ですが、現在アメリカでは、およそ1億人が近所に公園のない暮らしを送っています。また、公園の開発には、多くの資金や時間が必要となってきます。そこで私たちは、公園の開発について関心のある都市やコミュニティに向けて、技術・政策・計画・資金調達など多角的な観点から支援を行う独自のプログラムを用意し、すべての方が気軽に公園にアクセスできる環境を実現するために動き始めたのです。」

2050年には、アメリカで生活するすべての人が徒歩10分以内に公園にアクセスできる世界を実現したいというビアンカさん。現時点で、かなり良い手応えを感じていると言います。

「すでにアメリカ内の300を超える都市がこのキャンペーンへの賛同を表明し、平等にアクセスできる公園や緑地の整備に動き出しています。私たちは賛同を表明してくれた都市や市長とパートナーシップを築き、積極的に交流を重ねてきました。そして現在、特に関心の高いケンタッキー州レキシントン市、ペンシルベニア州スクラントン市、テネシー州チャタヌーガ市、カリフォルニア州ロサンゼルス市、テキサス州フォートワース市、オハイオ州クリーブランド市の6都市で試験的にプログラムをスタート。私たちと6都市は、約1年の時間をかけ、その都市で生活するすべての人が平等に公園にアクセスできる環境を整え、その実施内容や結果をもとに、他の都市にも計画を広げていく予定です。この活動によって、公園がアメリカ全土に建設されていくと信じています。」

災害への備えや心身の健康。
公園は暮らしにさまざまな価値をもたらす。

10 Minute Walkは、なぜこれほどまでに多くの都市や市長から支持されているのか。その理由についてビアンカさんは、「公園は健康的で活気あるコミュニティを形成するための基本要素であり、生活者に多くのメリットをもたらす場所だと理解されているからではないでしょうか。しかし現状は、すべての人が平等にアクセスできないという問題を抱えているため、この問題と向き合っている10 Minute Walkが支持されたのだと思います」と答えます。
ビアンカさんは、公園がもたらす具体的なメリットについて、次のように話します。

「公園や緑地は、生活の中で起こりうる厳しい災害から人々を守ります。たとえば緑地内にある木陰の下は、緑地がない場所と比較すると平均して6℃も低く、涼しいことが判明しています。また、大嵐が発生したときは、水を吸収し、洪水をはじめとする水害のリスクを防ぐ役割も果たします。」

災害への備えだけではなく、肉体的・精神的な面でのメリットも大きいと、ビアンカさんは続けます。

「コロナ禍で在宅を余儀なくされたとき、多くの人々は公園で過ごす時間を求めました。太陽の下で、鳥のさえずりを聞き、ただ休憩する。気分転換に体を動かし、安心・安全な環境で子どもと遊ぶ。特別ではないその時間が、たくさんの人々の心を癒したのではないかと思います。」

実際にニューヨークのセントラルパークで過ごしている人たちに話を聞いてみると、多くの方が「コロナ禍以前よりも公園で過ごす時間が増えた」と答えてくれました。陽の光を浴びながら音楽を聴き、読書を楽しむ。豊かな自然と触れ合いながらランニングやヨガに取り組み、心身の健康をかなえる。近くに公園があるという価値を、思い思いに享受している姿が印象的でした。

さらにビアンカさんの話は、公園を起点としたコミュニティの形成や、地域発展の可能性へと広がっていきます。

「公園は、近所で暮らす方や地域コミュニティとゆるやかにつながるための場所としても、重要な役割を果たします。犬の散歩をしている人たちの間で交流が生まれるかもしれません。運動を楽しむ中で出会う人もいるでしょう。生活の中で新しいつながりが生まれることで、人々は自分の住む地域に愛着や誇りを感じるようになります。さらにこうした人々が増えれば、地域社会そのものがよりよい方向に発展していくはずです。平等にアクセスできる公園の存在は、地域コミュニティの形成や、地域の成長にも貢献できるはずです。」

多種多様なメリットを地域コミュニティにもたらす公園。多くの都市が、公園に投資を決断した理由が十分に伝わってきます。

気軽に通える。安心して過ごせる。
それが、理想の公園。

公園ごとに、広さや設備などは大きく異なります、10 Minute Walkでは、どのような公園を理想としているのでしょうか。

「『公園にはブランコや滑り台が必要』というチェックリストは、必ずしも存在しないと思っています。それよりも重要なのは、地域の人々にとって行きたいときに気軽に通えて、しかも安心して過ごせる場所であることです。それがたとえ小さな緑地であっても、地域のコミュニティが望んでいるものであれば、素晴らしい存在だと思っています。」

最後に、ビアンカさんにとって公園とはどのような存在なのか伺いました。

「私は1日に2回、地元の公園に出かけています。それは、単に公園に関わる仕事をしているからではありません。小さい頃から公園で過ごす時間が大好きだったのです。昔はよくブランコに乗って遊んでいましたし、今はペットの犬と一緒に走り回ったり、日光浴をして過ごしたり。公園は、昔も今も、私がハッピーになれる場所なのです。」

住まいの近くに公園がある。そんな暮らしは、さまざまな豊かさに彩られていくことが、ビアンカさんの話を通じて伝わってきました。
これから住まい探しをされる方は、「公園が近くにある」という観点で調べてみてはいかがでしょうか。